第六章


 エレナが見舞いに訪れた次の日、カイルは退院し、すぐさまその足で施設に顔を出した。
 玄関で出迎えたシスターパメラに、カイルは優しく抱きしめられた。
「カイル、心配したわ。もうすっかりよくなったのね」
「ご心配お掛けしてすみませんでした。お蔭様で軽症で済んで、今は元気です」
 大した事はないと言っても、正直、怪我の痛みは今も疼く。
 そんな事を知らない子供達は、束になってカイルに抱きつき、カイルは必死に笑顔を見せては痛みに耐えていた。
 その時、サムがカイルに近づいてそっと囁いた。
「最近、エレナがおかしいんだ。時々ぼんやりとしてるし、何かいつも考え事してるみたいなんだ。これってカイルの事が心配だったのかな。カイルが退院したら、治るのかな」
 カイルはエレナに視線を向けた。
 エレナは、にこやかにカイルに笑みを向けている。
 いつもと変わらない笑顔ながら、その裏でライアンが接触しているのではと心配でならない。
 カイルはサムの耳元でこっそりと伝えた。
「もし、まだぼんやりしてたり、何か変わったことがあったら、僕に教えてくれるかな」
「うん、もちろんだよ」
 カイルはサムの頭を優しく撫ぜてやった。
 子供達がカイルとの挨拶を済ませ、やっと落ち着いた時、エレナが近づいてきた。
 子供達はカイルをエレナに譲るように、道を開け、そしてその後は邪魔をしないようにさりげなく去っていく。
 サムがこっそりとカイルに親指を立ててサインを送り、エレナとの仲を取り持つ応援をしてくれているその気遣いに、笑わずにはいられなかった。
 小さな子供にまで自分の気持ちがばれている。
 どこか気恥ずかしさを感じながらも、目の前にいるエレナに伝わらないのがもどかしい。
「カイル、退院おめでとう」
「ありがとう」
「無理はしないでね」
「わかってるよ。だけど、休んでた分は取り戻さないと。それに今抱えてるプロジェクトはなんとしてでも成功させなくっちゃ」
「カイルなら絶対大丈夫よ。いつだってカイルはなんでもこなしてきた。今回だって絶対成功する!」
「君に力強く言われるのは、嬉しいね。ぼくもやる気がでてきたよ」
「どんな時でも私はカイルを応援するわ」
「ああ、心強いよ。君が応援してくれるだけで、僕は何でもやれそうになる。例え失敗したとしても絶対くじけないよ」
「そんな例え話、ダメ。カイルは絶対成功するの。どんなときでも必ずやり遂げる人なの!」
「わかった。そんなに力まなくてもわかったって。ありがとう」
 大きな仕事を成功させれば、自信もかなりつく。
 この仕事が成功すれば、エレナもきっと自分への見方が変わるだろうし、結婚相手に相応しいと少なからず思ってくれるはずだ。
 カイルはそう信じて止まない。
 本当なら、今すぐにでもエレナに告白して結婚を申し込みたいが、それがライアンの出現で焦っているように見えるのも嫌だった。
 鈍感なエレナには、一つ一つの問題をクリアして、筋道を立てていかないと、いきなり結論に飛んでは、困らせてしまうだけだ。
 エレナのためだけに自分がここまでやってきた事を強調すれば、エレナなら絶対受け入れる。
「そういえば、その仕事が終わった後に、何か私に聞いて欲しいんだったね」
「ああ、ちゃんと覚えていてくれたんだ」
「もちろんよ。カイルはいつも準備してから行動するタイプだから、それまでは絶対話さないもんね」
 エレナのことだから、何も感づいてないのがちょっと辛いが、カイル自身の癖を理解しているだけでもそれは好都合だった。
 計画してきたことがより一層協調されるはずである。
「ああ、僕がやり遂げるところを見て欲しい」
「うん。しっかりと見てるわ。だって、カイルが成功したときって、いつも気持ちがいいんだもん」
 カイルが成功した話の後で、エレナは絶対に水を差さない。
 必ず首を縦に振る。
 いや、そうせざるを得ないくらい、きっと断れない状況になっている。
「ああ、必ずしっかりと見てくれ」
 カイルは真剣に念を押した。
 エレナは無邪気な笑顔を向けて、それに答えていた。
 エレナのこの笑顔は自分だけのものだと、カイルの中では、ライアンへの対抗心が芽生えている。
 そんな気持ちを抱くのも初めてだが、これだけは負けられないと、カイルはいつもより積極的に精神が前面に出てくるのを感じていた。
 事故を起こしてから、自分が新たに生まれ変わったような気になり、自信が漲っていた。

 カイルの退院後は一つの喜びとして加算され、嫌なこと続きだった日々の中では、いいニュースとしてエレナは捉えていた。
 立て続けに起こった出来事も、時間が経つと少しは落ちついているかのように思われた。
 決して油断しているわけではないが、ここで一息つく事もエレナには必要だった。
 子供達の春休みも終わったこともあり、再び日中は静けさに包まれている。
 シスターパメラも出かけ、家にはエレナ以外誰もいない。
 一人になって落ち着いてもよさそうなのに、この日は特に集中できず、何をするにも溜息が出てしまっていた。
 今日というこの日。
 それはエレナにとって、特別な意味を持ち、十年前のこの日に父親が連れ去られてしまったのだった。
 事件の内容どころか、父の安否も知らされず、この十年間苦しみながら怯えて暮らしてきた。
 すでに十年という月日が経って、エレナはすっかり大人になっている。
 この先の事を色々と考える時期に来て、いつまでもここに居るわけにもいかない。
 一層のこと、警察からも、誰にも知られずにどこかへ姿を隠そうかと思うほどだった。
 忘れられるものなら全てを忘れたい。
 しかし、囚われてしまった父の事が気掛かりで、それはどうしても見捨てる事はできなかった。
 そして一人で出ていけば危険も待っている。
 そんなジレンマでいつまでもここに居なければならなかった。
 自分の部屋で、十年前の日のこと、そしてこの十年間を振り返りながら、オルゴールに耳を澄ませ、エレナは一人ぼんやりとしている。
 そんな時に、ドアベルが鳴り響き、エレナははっとした。
 再び不安が訪れる中、恐る恐る様子を見に玄関先に向かえば、真正面の窓の外に車が止まっているのが見えた。
 その車には見覚えがあり、この日にその車が現れるという事は、ある人物を想起させた。
 先程抱いた緊張感はすっかり消え、ドアを開け、そしてそこに優しい瞳を向けている紳士の姿を確認すると、エレナは歓迎した。
「スタークさん」
 その紳士は、きりりとした、抜け目のないスマートさがあるが、エレナの前ではにこやかに笑っていた。
「エレナ。久しぶりだ。元気にしているかい」
 親しく話すその態度は、エレナの事をよく知っていた。
「はい、元気です」
 当たり障りのないエレナの返事の裏に、そうではないものをスタークは感じていた。
 それがどこか罪悪感を感じ、スタークは落ち着かなくなる。
「どうぞ、お入り下さい」
 エレナに案内されて、広間の大きなテーブルについた。
「今、お茶をお持ちします」
 準備をしようとするエレナの手を咄嗟に掴んで、首を横にふっていらないと示した。
「話がある。ここへ座ってくれないか」
 何を話したいか、エレナにはわかっていた。
 そしてそれは、無駄に月日が流れただけで、何も発展していない事がスタークの表情から読み取れた。
 この目の前にいる紳士は、アレックス・スタークといい、十年前の事件に深く関わっている捜査官である。
 エレナを申し訳なさそうに見つめ言葉を選びながら話し出した。
「エレナ、ここでの暮らしは辛くないかい」
 エレナは首を横に振り、黙って紳士の言葉に耳を傾けていた。
「何も事件の解決がないままあれから十年経ってしまった。君には申し訳ないと思っている。ダニエル、いや君のお父さんにさぞかし会いたいだろうね」
「スタークさん、心配して下さってありがとうございます」
 エレナは事件が解決しないことで、スタークを恨んではいないことを伝えたかった。
 できるだけ落ち着きを払って、笑顔を見せていた。
「今日は大事な話があってきた。あれから十年の歳月が過ぎてしまったが、ダニエルから何か預かっていないだろうか。今一度よく考えて欲しい」
 前にも聞かれた質問だった。
 そしてあの男も同じ事を訊いてきた、
 首を横に振ることしかできず、知らないものは答えようがない。
「とても大切な事なんだ。もう一度よく思い出して欲しい」
「スタークさん、父は一体何をしてたんですか。なぜあの人達に連れていかれなければならなかったんですか」
「すまない。詳細は伝えられない。ただ言える事はダニエルは私達の捜査に協力してくれていたということだ。全てはうまく行くはずだったんだ。こんなことになってしまって本当申し訳ないと思っている」
 十年経った今も、あの事件の真相はエレナには知らされていない。
 ただわかることと言えば父は何かを研究していたと言うことだけだった。
 そして警察組織はそれを探そうとしている。
 これだけ派手に、少し名の知れた科学者が拉致されたというのに、この事件の詳細は世間に公表されていない。
 事件の真相は漏らしてはいけないのが、当たり前とされる捜査だった。
「エレナ、なんでもいいんだ、何かダニエルが君に知らせようとしたことはなかったか、もう一度思い出してみてくれないか」
 エレナが、父親から渡されたものはあのオルゴールのみであった。
 しかしエレナはこの事をすでに伝え、それは調べられてすでに違うといわれていた。
 それ以外にエレナが父親からもらったものといえば、愛情くらいなものしかわからなかった。
「エレナ、君は我々の保護下にいる。ここにいる以上君は安心していい。君の事を知っているのは、私を含めてほんの一握りしかいない。だが今ダニエルを連れ 去った組織が活発に動いているという情報を得た。奴等は何をするかわからない。もし君の居所が奴等にわかってしまうと非常に君は危険なんだ」
 エレナが自らもここを離れられないことを自覚している。
 自分自身、危険だからこそ、ここで生活せざるを得ないのに、スタークの口から改めて危険を匂わされるとは思わなかった。
 全く見ず知らずのハワードにもその事を告げられているだけに、エレナはその危険の状況が膨れ上がっているように感じてならない。
 その驚きに、瞳が揺れて動揺してしまい、スタークから目をそらしてしまった。
 スタークはむやみに怯えさせてしまったことを後悔しつつも、そうせざるを得ないくらい、この状況が緊迫していることは隠せなかった。
 個人としての思いと、仕事としての自分の立場に葛藤していた。
「奴等は君が何かを知っていると思っている。その前に警察が先に見つければ君には危険が及ばない」
 エレナは再びスタークを見つめた。
 その表情は酷く困惑し、そして腹立たしくもあった。
「スタークさん、私本当に何も知りません。わかってたら、すでに話してます」
 落ち着いて話そうとしたつもりが、ついエレナのその言葉には怒りが混じっていた。
 スタークはエレナの訴える顔を、悔悟の念を抱きながら見つめていた。
 エレナの人生を苦しめてしまった責任は、自分にあると責めていた。
「すまなかった。必ず君の安全は私が保証する。ダニエルは私がきっと救い出す」
 責任を取る覚悟でスタークはエレナに誓うが、この言葉はエレナをはっとさせた。
 ──救い出す
 これが口から出てくるということは、スタークは父が生きているということを知っていると直感した。 
「父は生きているんですか。父の事を何か知っているんですか」
 スタークはその質問をされるのが困るかのように、また顔を塞ぎ込みエレナから視線をそらした。
「すまないエレナ。私の口からは何も言えない」
「でも父を救うと今おっしゃいました。それは父が生きていると知ってるからではないのでしょうか」
 紳士はもうこれ以上話ができないと、椅子から立ち上がりエレナの目を見つめた。
 エレナはその目に必死ですがっていた。
「父は生きてるんですね。なぜそれすら教えてくれないんですか。私には知る権利があります」
「エレナの言う事はもっともだ。もちろん話せるものなら話してあげたい。しかし、全てが極秘情報で、私以外の者が知らない情報も含まれる。私の口から漏れ るとまずい事態を引き起こすかもしれない。私はそれを恐れている。エレナには本当にすまないと思っている。しかし、私の立場というものも理解してもらえる と有難 い」
「でも、父が生きてるかどうかだけでも教えてください」
「いいかい、エレナ、その安否の情報だが、これは誰も本当は知らないことなんだ」
「えっ?」
「私、以外はね」
 スタークは静かに立ち上がり、エレナを優しく見つめ、その後は黙って去っていく。
 エレナは放心状態になり、座ったまま動けなかった。
 スタークの言い方は、裏を返せば父親が生きているということを自分以外知らないということだった。
 そこに、スタークしか知りえていない事で、捜査を超えた個人的な事情があることが読み取れた。
 警察も知らない立場でありながら、スタークだけが知る事情。
 そんな情報をスタークに知らせる存在がいる。
 エレナははっとした。
 スタークは謎の男と通じているのではと直感が働き、エレナはスタークの後を追いかけた。
 しかし、スタークはすでに自分の車に乗りこんで、去ろうとしていたとこだった。
 エレナがドアを開けたと同時に、スタークの車はすでに動き出していた。
「スタークさん!」
 エレナの声はスタークには届かず、車は去っていった。
 例え、話をする機会があったとしても、スタークは口を開く事はなかっただろうが、エレナの疑問はどんどん膨らみ、詳しいことを知りたくて堪らない。
 父親が生きていることを知った今、その気持ちは、いてもたってもいられなくなった。
 そんな時に、ふと、ハワードの事が思い出された。
 ハワードはエレナの事件に関して何かを知っているからこそ、自分に危険を仄めかしてきた。
「なぜ警察も極秘にしていることをあの人は知っていたのだろう」
 そう思うと同時にエレナの体は動いた。
 自分に危険が迫っていようとも、この時、真相を知ることに気が集中してしまい、猪突猛進の悪い癖が強くでてしまった。
 エレナの曲げられない強い意思は、ハワードの事務所へと足を向かわせていた。

 エレナに、自分の事情を仄めかしてしまった事は失態ではあったが、少なくともエレナの父、ダニエルが生きていると伝えられた事は少し肩の荷が下りていた。
 だがその情報を知りえるのも、自分だけという特殊な事情から、なぜそれを知っているのかと聞かれるのは非常に困ることだった。
 その情報を流したもの、そしてスターク自身、双方どちらの立場も危うくなる。
 十年間、事件解決の発展がない裏で、その事件がそれ以上に大きくならなかった事は表裏一体のバランスがあった。
 捜査官でありながら、私情を挟むために、スタークは常に葛藤し続け、また、他の事件も入り込んで、時間だけがうやむやに経ってここまできてしまった。
 だがそれも今度こそ終わりにしてやるという意気込みを持ち、事件も正念場に来ているという感覚があった。
 この先、必ず事が大きく動く。
 エレナに会ってその気持ちは益々高まっていた。
 全てが上手くいくように、スタークは祈りをささげるつもりで、ある場所を目指していた。
 そこは小高い山間を切り開いた、自然の中にあり、静かに時が止まっている。
 この世を去ってしまった人々が眠る場所。
 墓地だった。
 十年の月日が流れたこの日、エレナの父親が拉致された日でもあるが、スタークにとってもう一つ悲しい出来事が起こっていた。
 自分の妻の命日でもあった。
 墓地の駐車場に車を停めれば、ふと隅に赤いバイクが目に入った。
 ──あいつが来てるのか。
 なだらかな斜面を登り、小高い丘の上に差し掛かったとき、白いユリを捧げ、静かに佇んでいる青年の姿が前方に見えた。
 スタークも同じ場所を目指して、その青年の後ろに立った。
 青年は人の気配を感じ、ゆっくり振り向く。
「親父……」
 その声は冷たいものだった。
「お前も来ていたのかライアン。母さんの好きな花を覚えてたんだな」
「親父は何も持たずだな。相変わらず母さんの事を気づかってもやれねぇな」
「少し忙しかったので花を買ってる暇がなかった」
「親父はいつもそうなんだよ。母さんが息を引き取る前もそうだった。仕事を選んだんだもんな。いつも仕事仕事だ」
「すまないライアン」
「俺に謝るんじゃなくて母さんに謝れよ。それじゃ俺はもう行くぜ」
「ライアン、ハワードとはうまくやってるのか。仕事はどうなんだ」
「父親みたいな口聞くなよ。あんたには関係ない。じゃーな」
 ライアンは荒ぶって去っていった。
 スタークはそれ以上何も言わずに静かに見守っていた。
 エレナの事件を担当しているFBI捜査官でもあるが、またライアンの父親のアレックス・スタークでもあった。
 この日はアレックスにとっては妻、そしてライアンにとっては母親を亡くした日である。
 ライアンは母親が危篤にも関わらず、仕事を選んだ父親が今でも許せなかった。
 そしてこの日はエレナの父親が連れ去られてしまった日でもあるが、ライアンは自分の父親がエレナと関係があることは何も知らない。
 母親が危篤のときに、父親が選んだ仕事というのはエレナに関係する事件だった事も知らず仕舞いだった。
 ライアンは振り返りもせず丘を下りていく。
 アレックス・スタークは自分の息子の後ろ姿をじっと見つめていた。
 見えなくなると妻のお墓に振り向き、一言『すまない』と謝った。

十年前のこの日、アレックスは葛藤の渦にいた。
 息を引き取ろうとする妻を目の前に、あの事件が発生した。
 責任者でもあるためにすぐ現場に行かなければならず、しかし、それを放棄してでも妻の側にいたかった。
 アレックスの妻は死ぬ間際まで、自分の夫の事を理解し、息が絶えてしまいそうな時に精一杯言葉を絞り出した。
「あなた、早く仕事に行って。仕事をしているあなたが大好きだから」
 そう妻に言われ決意してアレックスは現場に向かった。
 しかしまだ12才だったライアンには理解できない事だった。
 ライアンはこんな時までも、父親は仕事を選び、母親と自分を置いていった事が許せなかった。
 ライアンが荒れ出したのも、ちょうどこの時期を境にしての事だった。
 アレックスは、ライアンの気持ちを良く理解しているからこそ、ライアンの好きなようにさせている。
 しかし心の内は一人の父親として、息子の事が心配でたまらない。
 ハワードに依頼をしたのも父親としてライアンを守りたかったからである。
 アレックスはエレナの事にしても、自分の息子の事にしても、人生を狂わしてしまったと自責の念にかられた。
 妻を失ってしまった悲しみもまた強く、妻の墓の前でただ悲しい顔をしながら暫くじっと立っていた。
 この先の事を見守っていて欲しいと、心の中で妻と会話をしていた。
一方で、ライアンはバイクにまたがり、父親の車を見つめた。会えば憎まれ口を叩いてしまうが、父親の顔がとても老け込んでいることに、複雑になっていた。
 その父親の老いは自分が苦労を掛けていると思う節もあり、またどんどん年を取っていることが悲しくも思えた。
 いつまでも反抗していても仕方ないのはわかっているが、素直になれないでいる自分がもどかしかった。
 気持ちがもやもやとしたままバイクのエンジンをかけ、溜息を一つ吐いてその場を去っていくことしか、今のライアンにはできなかった。
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