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出会いは突然に、そして衝撃的にお互いを見初めてしまった。
いつ命を落とすかもしれない切羽詰った生活の中では、全ては一瞬の判断で決まってしまう。
ゆっくりと愛を育む過程が大事であって、急な即決ほど後で後悔するといわれても、二人には意味を成さなかった。
突然芽生えた恋はすぐにでも手に入れ、そして激しくお互いを求め合って当たり前だった。
時間の流れなど無駄。
この生きているときに大切な人と出会えることの方が重大で、その後は生き延びてこそ、愛を育める。
過酷な状況に置かれた場合、それは突然に導かれ、運命のごとくそれに従う。
男は地図を広げ、逃げ切れるルートを模索する。
なんとしてでもこの女と新しい生活を共にしたい。
女もこの男についていきたい。
この不思議な導きに運命を委ねたい。
二人はまだ見ぬ未来を掴み取ろうとしていた。
「大丈夫、心配するな。必ず逃げ切れる」
いや逃げ切ってみせる。
男は女に誓った。
覚悟を決めて、女の手を取り、ドアの入り口に向かう。
ドアを開け、辺りをよく確認してから、男は外へ飛び出した。
女は男の手を強く握って一心同体になり、全てを男に委ねた。
森の中は身を隠せるほどに木が生い茂り、森の奥に入り込めばあまり目立たなかった。
「こっちだ。この先に川がある。その川をつたって下流に進もう。いざとなれば川に飛び込み流されるままに逃げおおせるかもしれない」
一か八かの賭けでもあった。
その前に誰にも見つからなければ済むことだった。
女はこの男に出会ったことを神に感謝した。
今まで言い寄られる男はいたが、自ら好きになることは全くなかった。
女は子孫繁栄の道具という考え方でもあり、恋をしてから結婚などという順序など存在しなかった。
拒否をしても断る権利など女にはなかった。
だから無理やり結婚させられるときに、敵が攻めてきたお蔭でどさくさに紛れて味方からも逃げてきた。
希望も夢もなく、どうにでもなれというヤケクソさで一人彷徨い、そしてあの小屋を見つけた。
全てを諦めていたとき、この男が現れ、ここでお終いと覚悟したときに、女はこの男から発する不思議な気を捉えた。
探していたものに巡り合ったすっきりとした気持ちの中、全てが神のお導きだと感じてあの時に至った訳だった。
そしてそれは間違っていなかった。
一度捨てた命なら、この男にあげてもいい。
そしてこれは運命の導き。
ここから自分の未来は始まる。
そう信じてやまなかった。
女が男の目を見て感じたものは未来へ繋がる確かな希望。
平和のおだやかなときをこの男と笑顔で語り合ってる姿だった。
それが見えたから、女は怯えなかった。
こうやって手を繋いで逃げているときですら女は幸せだった。