エッセイ

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  第3話 ダブルでぶ  

 大人になってから、親友を見つけるのは難しいと私が言えば、夫は反論した。
 夫はアメリカン。日本語はそこそこ話せるが、日本人の私とは考え方や習慣がやっぱり違う。
 見知らぬ人とすぐに意気投合しては楽しく会話をするような国の人には、いつでもどこでも友達というものは見つけやすいものなのかと考えてもみたが、自分 の経験上、納得できないものがあった。
 そこで、最近知り合った人でどんな仲のいい友達がいるか聞いてみた。
 夫は「ダブルでぶ」と言った。
 私が「ダブルでぶ?」と聞きなおすと、夫は頷いた。
 それってとっても太った人のことなんだろうかと、私の頭はもう巨漢の姿の人物を想像していた。
 アメリカに住んで十数年。周りは確かに太い人が多い。体がふくよかな人は性格もおおらかで、友達になりやすいのかもしれない。あれやこれやと考える。
 ダブルでぶ。言い方はなんかいただけないけど、よほど親しい間柄になって、親しみを込めたニックネームみたいなものなんだろうと話を聞いていた。
「そのダブルでぶって、体重どれくらい?」
と聞くと、夫は
「?」
と不思議な顔をしてそれは知らないと言った。
 ダブルのでぶだから想像を絶するのかもしれない。そこで100キロは越えてるかなというと、夫はそんなにもないと言った。
「えっ、それじゃそんなに太ってないじゃない」
「そうだよ、彼らは太ってないよ」
「彼ら?」
「そう、二人。ダブルでぶ。デブが二人」
「えっ、でぶが二人もってこと?」
 この時点まで私は二人の太った人を想像していた。
 そして夫の次の言葉で気がついた。
「そう、二人の名前はデイブ」
 このとき、やっとわかった。夫は二人のデイブという同じ名前の人と知り合って、どちらもとても仲が良くなったと言っていた。
 それがダブルでデイブがいるという意味だった。
 それを私がデブと聞き間違えて勝手にだぶだぶのデブを想像していたので、デブで思い込んでいた。
 それだけのことだった。
 そうですか、仲がいいお友達が二人いてよかったですね……
 デイブ、デブ、早く言われるとそう聞こえたのよ。
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