第7話 耳の水の思い出
英語がよくもわからずに、学生の頃は夏休みを利用して何度かホームステイをしたことがある。
度胸と好奇心だけでやってのけたが、今思い出すと恥ずかしい未熟なことが一杯。
どれほどの理解と助けを得てあの時楽しい思いをさせてもらえたか、思い出せば私と関わった全ての人に感謝の気持ちで溢れる。
私にとっては二度目のホームステイで、その時お世話になったおじいちゃんとおばあちゃん。当時どちらも64歳。
子供が居ず、私を快く受け入れてくれた。だけどこのおじいちゃんとはちょっと合わない部分があった。ものすごく頑固で、怒ると容赦はしない人だった。
私が悪いところがあったにつきないが、たまたまプールに入ったとき、耳に水が入り、それがずっと抜けないまま、気分が悪くなってついついイライラしてい
た。
英語もよくわからないで、おじいちゃんと話がかみ合わず、私はおじいちゃんを怒らせてしまった。ものすごく反省して謝ったけど、すぐには許して貰えな
かった。
お世話になってるのに、悪かったのは私。あのとき耳に水さえ入らなければ……
そしておばあちゃんに病院に連れて行かれた。医者は手馴れたもんで、これはアレですなとでも言いながら手際よく治療をしてくれた。
周りの友達はなかなか水が抜けなかった私の耳を心配してくれて、病院から戻るとどうだったと様子を聞いた。このホームステイに参加した日本人を世話して
くれた、日本語が少しわかる日系二世の人も側に居て、心配してくれていた。
治療は耳が痛く、液体を入れられ、棒みたいなものを奥深くつっこまれて、苦しい思いをした。すると綿のような白いものが沢山でてきた。それが何か全くわ
からなかったが、医者はWAXだと言った。
ワックス? その言葉通りに受け取って、皆にもいうと、そんなものが入ってたのとビックリしていた。
そしたら日系二世の人が日本語で
「ああ、耳くそね」
思わず、皆で大笑いした。
そっか耳くそは英語でワックスなのか。勉強になった。
それは入ってて当たり前だわ。私の場合水でふやけてふさいでしまったのね。
その後、パーティがあり、一人一人、自分のホストファミリーに感謝の気持ちをみんなの前で述べる機会が儲けられた。
そこで私はおじいちゃんに思いっきり抱きついて、ごめんなさいとありがとうを耳元で伝えた。おじいちゃんは照れくさそうにしながらもぎゅっと強く抱きし
め返してくれた。
おじいちゃんも大人げなかったと反省していたみたいで悪かったって謝って、そのあと素敵な微笑を返してくれた。
何回かホームステイをしたけども、私はこのおじいちゃんとおばあちゃんとはその後ずっと交流が続いた。二、三回また会いに戻ったし、電話もしたし、それ
なりの繋がりはあった。
でも数年前、毎年来ていたクリスマスカードが届かなくなった。
その時点ですでに出会ってから20年近い年月が経とうとしていた。
連絡も取ることができず直接確かめることはできないが、時が経てば経つほど、これが何を意味しているか私にはわかっている。
感謝の気持ちだけは時が経っても大きくなるばかり。
本当にありがとうってもう直接言えないのがもどかしいけど。