第四章


 ぺちゃっとする生暖かい濡れ濡れのものが俺の顔に塗りたくられたのを感じたとき、目を開けて俺は飛び上がるほどに驚いた。
 目の前に大きな生き物が俺をみていたからだ。
 どうやらコイツに俺は舐められたようだ。
 黒光りした肌はやや緑色を帯びていて、鎧のようにうろこで覆われている。
 俺が恐れて不安がれば、それは首をもっと近づけて、優しい目を向けてきた。
 いかつい体つきのわりに、その潤んだ瞳が俺の恐怖心をいくらか和らげた。
 俺がそっとそいつの顔に触れたとき、嬉しそうに目が細まる。
 邪悪な動物じゃない。
 そして俺はこの生き物を知ってる、というのか、本でみたことある。
 トカゲを大きくして、そこに羽がついている生き物、そこから想像できるものはドラゴンしかなかった。
 しかもコイツ、かなり俺に懐いて、まるで犬のように人懐こい。
 だが、なぜこんな生き物が今俺の前に居るのかがわからない。
 しかも、周りを見れば、見知らぬ森の中。
 俺はそこで暫く寝ていたみたいだった。
 いや、違う。
 よくみれば、俺は体の所々に傷をおっている。
 それもなんだこの鎧、そして地面に転がっていた剣。
 どういうことだ。
 俺が最後に覚えているのは、交通事故を目撃して、はねられた女の子を咄嗟に助けに行こうと走ったことだった。
 その後が思い出せない。
 気がつけば、ドラゴンに見守られながらこの森に居たわけだが、まさか俺は違う世界に飛ばされたのか。
 立ち上がろうとしたとき、俺の脚に力が入らなかった。
 ドラゴンがキューという声を出して心配し、俺の脚を舐めた。
 俺はそのドラゴンの頭をなぜた。
「ありがとうな。治そうとしてくれてるんだな」
 少々痛むが、側に落ちていた剣をとり、それを杖にしながらドラゴンの助けもあってなんとか立ち上がれた。
 俺はここでこれからどうすればいいというのだろう。
 だが、俺に懐いているドラゴンを見ると、なんだかこの世界も悪くないように思えた。
 俺はここではドラゴン使いの騎士なのかもしれない。
 剣を片手に、それを振ってみる。
 意外にも俺はこの剣の使い方を心得ているようだ。
 その時、森の奥から騒がしく何かが近づいてきた。
「ここにいたぞ! まだ生きているぞ」
 ドラゴンの顔が険しくなり、怒りを入り交えた威嚇を向けた。
 俺も咄嗟に逃げなければと本能がそう感じた。
 だがこの傷ついた体でどうやって。
 ドラゴンの首が低く俺に向けられる。
「お前に乗れというのか」
 ドラゴンの目は真剣だった。
 俺は迷ってる暇もなく、その首に乗り、必死にしがみつく。
 片手に持った剣を掲げ、生きるか死ぬかの真剣勝負に、体にぐっと力が入ってしまう。
 ドラゴンは、奇妙な雄たけびを上げると、羽を広げて、すぐに宙を舞った。
 そして向かってきたものに突っ込んでいく。
 これは俺に戦えという合図なのか。
 そんなこと俺に出来るはずが……
 その時、俺の剣がきらりと光り、俺は「いける」と体で感じた。
 ドラゴンのキレのある動きで、襲ってくる人の波に立ち向かい、俺はその剣を振りかざす。
 一人、二人と次々倒していく。
 俺、すごいじゃないか。
 ドラゴンも宙を機敏に飛び回り、見事に敵からの攻撃をかわす。
 俺、もしかして強いんじゃないだろうか。
 すげー。
「おのれ、ドラゴン使いの騎士め!」
 俺を目の敵にする奴らは一体何が目的で俺を始末しようとしたいのだろうか。
 まあ、それもそのうちわかってくるのだろう。
 俺はここではドラゴン使いの騎士とわかっただけでも充分だ。
「いくぞ、相棒!」
 俺はドラゴンにそう囁きかけると、ドラゴンは一鳴きの雄たけびをあげ、そうして空高く、打ち上げるロケットのごとくまっすぐ飛んでいく。
 なんて気持ちのいい。
 俺は、ドラゴン使いの騎士。
 さて、これからどんな冒険が始まるのか。
 この世界には何が待っているのか。
 俺はすでにこの世界に適応していた。
「うぉぉぉぉ!」
 大空を飛びながら、俺はワクワクしていた。

The End


PS
 この世界の無限の可能性は、いつも頭で創られて、それはいつしか現実に…… なるかもしれないよ。
 人がなんていおうと、いつも楽しく妄想に耽っていいじゃないの。
 いつしか年を取っても、常にワクワク、ドキドキさせて、妄想全開フルスロットル!
 本当に何があるかわからないよ、この人生。
 世の中、いろんなこと考えたもの勝ち。
 そしてそれはどこで現実のものとなるか。
 それは人それぞれに、いろんな形となってあらわれるのかもしれない。
 私はそう思う。

 成瀬ハナ





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