遠星のささやき


4 

 三岡君とうっちゃんとは結構話をしながら楽しく店を手伝った。
 でもトモだけはまだまともにしゃべってない。
 だけどトモの視線だけは常に感じていた。
 喋りたそうにしているが、遠慮してるのかシャイなのか自分からは喋ってこなかった。

 そこで私から声を掛けてみた。
「パイナップルばかり切って手が痛くならない? 大丈夫?」
「えっ、う、うん。大丈夫」
 トモは照れたように笑っていた。

「リサちゃん、トモに気つかうことないから。こいつ、いつもはっきりしないし、情けない奴なんだ」
「うっちゃんはいつもトモをいじめすぎ。もっと優しくなれよ。トモはいい奴だぜ。ちょっと頼りないけどな。でも俺たち親友だから、一人でも欠けたらダメな んだよな」
 三岡君がフォローした。

 それぞれの力関係がはっきり見えた気がした。
 でもこういう男の友情っていいなって思えるほどこの三人がいい関係に思える。
 気が付いたらこの三人の中に違和感なく入り込んでいる自分がいる。
 昔からずっと知っていたようなそんな気持ちになった。

 私もずっとこの三人の輪に入っていたいな。
 そんな風に思ったとき、三岡君が言った。
「リサ、もうそろそろいいぜ。なんとか今日の目標の分は売れたし、リサも疲れただろう」
「私、全然疲れてない。とっても楽しいくらい」
「無理すんな。そしたら明日までここで店を開くから、暇だったら明日も来いよ」
「またここに来てもいいの?」
「それは俺の台詞だろ。こっちが頼んでるんだから」
 三岡君って何でこんなに気持ちいい対応してくれるんだろう。
 トモはともかく、三岡君もうっちゃんも素敵過ぎる。
 この二人がもてない訳がないや。
 そんな二 人から相手してもらえるなんて信じられない。
 思わず自分が特別な存在に思えて有頂天になってしまった。

 三人いつも一緒らしいけど私の眼中にはトモは排除されていた。
 うっちゃんが見下した態度を取ったのが悪いのかも。
 私もついうっちゃんと同じ目線でトモの ことを見ていた。

 私が帰る時、トモは何か言いたそうにしてたけど、私は無視して三岡君とうっちゃんにだけ笑って手を振った。
 その晩、なんだか体がフワフワしてとても幸せな気分だった。
 今まで色んな男の子の話を佳奈美としてきたけど、この日のことは佳奈美にも話せないくらいう まく話がまとまらない。
 気持ちだけが先に出て、ただまた三岡君に会いたいってそればかり考えていた。

 また明日会える。
 それが楽しみで夜なかなか寝付けなくて、眠ったのが朝方。
 起きたときは時計をみてびっくりした。
 昼近くになっていた。

「いくら春休みだからって、こんなに遅くまで寝かせておくなんてなんて親!」
 いつもなら起こされたら機嫌が悪いのに、この日は違った。
 だが、カーテンを開けて外を見たとき驚いた。
 外は土砂降りの雨。
「うそ、雨? どうして」
 慌てて支度をして、とにかく私は前日と同じ場所に走っていった。

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