遠星のささやき

第2章

2 

 春休みの間中、しつこく、もしかして、もしかしてと暇さえあれば何度もお寺に通った。
 三岡君が自分を待ってるような気がして、会えるかもしれないと期待してしまう。
 でも必ずその後は自分の浅はかな考えに自分であざけ笑う。

 それの繰り返 し。

 春なのに、心うきうきの新しい気持ちを抱く季節でも、私の心は既に何もかも散って絶望感に溢れている。
 そして春休みも終わり、高校の入学式の日、晴れて高校生となっても別に感動もなく上の空だった。
 佳奈美とは同じクラスになれなくて、私が1年10組で佳奈美は1年2組。教室も恐ろしく離れてしまった。

 まずお互いの教室がある校舎が中庭を挟んで向かい合わせの状態。
 私のクラスは一階の一番端だけど、佳奈美は二階の反対側の端っこ。
 遠すぎる。
 高校生になってもまた交換日記しようと二人で約束したが、遠すぎてなかなかお互いのクラスに行き来できなくなった。

 そして何より、私がもう誰にもときめきを感じない。
 あれだけ男の子の話題につきなかったのに、高校生になってから誰一人興味を持てるような人もいない。
 佳奈美は佳奈美で、相変わらずアニメのキャラクターに夢中。
 そして演劇部に入って演技に目覚めて忙しくしていた。

 私は昔から憧れていたサッカーボール部のマネージャーになった。
 サッカーが好きなので携われることが嬉しくて、そしてボールを蹴って汗を掻く姿の男の子が好きになると思っていたけど、それは全くなかった。
 ただ仕事だけはしっかりとする部活活動となった。

 元々佳奈美とは全く趣味が違う。
 それでも中学のときは、知ってる男の子の話題が飛び交ったから話を聞いていても面白かった。
 高校生になると知らない顔も 増え、お互いのことや周りの人のことを書いても、ピンとこず、昔ほど楽しく文章がかけなくなっていた。

 佳奈美も同じだったのだろう。
 気が付いたらあれだけ続いた交換日記が自然と終わっていた。
 それだけ私達は大人に近づいたのだろうか。
 交換日記は続かなくなったけど、友情は変わらないままだったのが何よりも救い。
 学校では一緒にいなくても、時々一緒に遊びに行くし、お互い気を遣わない 楽な関係は健在だった。

 だけどまだ佳奈美には三岡君の話はしていない。
 話すタイミングを失ったのと、三岡君のことを思い出すと辛くなるので私が勝手に封印しただけ。
 一瞬の出会いだったのに、私は信じられないくらい三岡君に心奪われていた。
 こんなにも人を好きになったことがないくらい、それはこの先も変わらないだろ うって思える程に、私は三岡君が大好きだった。
 これが本当の恋──。
 その時真剣に思った。

目次

BACK  NEXT


inserted by FC2 system