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「でもさ、なんでまた私と会ってくれたの?」
唐突に振ってみた。
「なんでだろう。俺たちどうしてもリサのこと忘れられなかったんだ。俺、あの時お前に声をかけたのも、お前の顔をみたとき初めて会った気がしなかった。
きっと俺がぐっとくる好みだったんだと思う」
「えっ、好み? 私が?」
「うん、なんていうんだろう。ずっと探していたものに会ったようなそんな感じを覚えたんだ……」
三岡君は思ったことをストレートに話してくる。
最後を言い切る前に声が小さくなっていく。
それは自分で独り言を呟いて確認しているような真剣な気持ちに聞こえた。
でも私は素直にその言葉を受け入れられなかった。
それが私を苦しめることになるって三岡君が知ったらどう思うだろう。
私だって、三岡君に会ってからずっと忘れられなかった。
でもこの時、私は自分の気持ちを素直に口に出すことができず、何もリアクションを起こさなかった。
本当は素直に言いたかったのに、何かに引っ張られるように思い留まってしまった。
私の耳に入る三岡君の言葉がどんなに自分に嬉しく心地良いものでも、三岡君には彼女がいる。
彼女の存在がちらつくと目の前にガラスの壁を置かれたように、それを挟んで三岡君を見てしまう。
決して近づけないのに、その存在はクリアーに見えるそんな感じ。
三岡君は事実を述べるだけでそれに対しての自分の気持ちまでは私には何も言わなかった。
私が聞きたかった言葉は『好き』その一言だった。
そこまで三岡君が私のこと真剣に考えているとは思わなかったけれど、中途半端な思わせぶりの言葉を聞くのは耳をふさぎたくなった。
「おい、三岡、あんまりリサちゃんを困らせるなよ。お前が自分の気持ちを正直に言うのは珍しいけど、リサちゃんは三岡のことなんてなんとも思ってないっ
て」
うっちゃんが振り向いて言った。
「あっ、ごめん。ついリサの前だとなんでも言ってしまった。リサは俺より年下なのに、しっかりしててつい安心しちまうところがあって、何も考えないで口に
してしまう。初めて会ったときも見ただけで気が安らいだところがあった。あのとき俺が声をかけたばっかりに、一生懸命それに応えてくれて商品を売ってくれ
て感動したくらいだった」
「だから三岡それくらいにしておけって」
うっちゃんはまた遮った。
三岡君は自分の言いたいことを言って、自分で納得しようとしているようにも見えた。
物事にきっちりと筋道を立てたいのがよく見えた。
あの時、雨で祭りが中途半端に終わってしまったから自分でも不完全燃焼のようなものを感じて、我慢できなかったのかもしれない。
だからこのとき、こうやって自分が抱いた気持ちを私に理解して貰おうと説明しているんだろう。
ただそれだけのことに私は勝手に妄想して一人で舞い上がっていた。
うっちゃんはそんな私の気持ちが見えたから助けてくれたんだろうか。
それとも三岡君の性格を知り尽くしてるから牽制していただけなんだろうか。
私は深く考えないようにしようと、ついトモに声を掛けた。
「ねぇ、どこに向かってるの?」
「えっ、ああ、適当に走ってるだけなんだけど」
トモは突然話を振られてどもって答えていた。
「おい、トモ、目的地くらい考えて運転しろよ」
うっちゃんはまた上から目線で呆れていた。
結局はうっちゃんが支持を出して、トモはそこへ向かう。
トモは本当に一人で行動をしっかりと起こせない人だなと呆れたが、一生懸命やっていることだけは理解してあげることにした。
それにトモには今回再会できたという恩もある。
やっぱりこの三人が揃ってこそいい関係なんだろう。
三岡君、うっちゃん、トモ。
ほんとにこの三人誰が欠けてもいけないんだ。
うっちゃんがトモに命令するように道案内している。
後ろに私や三岡君がいるのも忘れたように、うっちゃんはイライラしながら指図していた。
私もそれに気を取られたフリをして、暫し三岡君のことから離れようと前の二人を見てたときだった。
私の息が突然止まる程びっくりな衝撃が走る。
思わず隣にいた三岡君を反射的に見てしまった。