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北風の強い日々。
1月は決して暖かい日などないが、この苛つかせるような寒さは2月に入ってからどんどん厳しくなっていく。
私がいいたいのは気温のことだけじゃない。
2月10日──。
自分の誕生日ながら、近づくにつれ落ち着かない。
年を取ることにこだわっている訳でもなく、プレゼントがもらえるかもしれない楽しみでもなく、この日に三岡君が戻って来て会えるかもしれないという未知
の不安。
嬉しいのか困るのか怖いのか、表現できない程に心が冷凍保存されている感じ。
解けないと気持ちがどこに流れ着くか判らない感覚。
自分の誕生日という節目の記念日に重要なことが重なると益々気持ちだけが重苦しくなる。
誕生日の一週間前、または三岡君が戻ってくる一週間前とも言えるが、トモから連絡が入った。
てっきり三岡君が帰ってくる日についてのことだと思った。
でもトモは全く違う話題を先に振ってきた
「プレゼント先週に送ったんだけど、届いた?」
トモは浮かれた自分が満足してるような嬉しさを込めて私に聞いてきた。
「えっ、そんなの届いてないけど?」
私がそう言うと、トモは崖から落ちたくらい落胆した消え入りそうな声になった。
「おかしい、ちゃんと買って送ったんだけど」
「でも、届いてないもん。だけど一体何を送ってくれたの?」
別にトモからのプレゼントなんてどうでもよかった。
きっとぬいぐるみかなんかだろうと思っていた。
でもトモは私でも知ってる名前のブランド物のバッグを送ったと言った。
値段にしたら数万円くらいはすると思う。
これにはびっくりだったけど、でも手元には何も届いてない。
「そんな高いもの送って、郵便事故で紛失した場合の事も考えなかったの?」
「昼間は仕事だからどうしても郵便局にいけなくて、ここに住んでるアパートの大家さんに事情を話してお金を預けて送ってもらったんだ。ちゃんと送ったって
いってたんだけど」
「その人は中身がなんだか知ってたの?」
トモが「うん」と答えると思わず私はため息が洩れた。
頭の中ではなぜそれが届かなかったのか容易に推測できたような気がした。
「もういいよ。私にそんな高いもの送ろうとするからだよ。気持ちだけで充分だから」
トモは暗くなって、暫く言葉を失っていた。
大家さんが怪しいのか郵便事故にあってしまったのか、それを問い詰めることもしそうになかった。
やっぱりトモはどこか抜けて不器用だ。
「それで2月10日は何時にどこで会えばいいの?」
プレゼントのことから話を逸らそうと自分から三岡君の事を振ってみた。
詳しい日時を淡々と語るトモの声がどこか可哀想に思えてくる。
がっかり感が声に現れすぎて、つい恥ずかしげもなく思ったことを私は口にしてしまう。
「トモ、もしかして私のこと好き?」
「えっ?」
「だって、そんな高いもの特別な感情がない限り、普通知り合いの女の子にはあげないと思う。トモだってまだ社会人になって間もないし、お金だって一人暮ら
し
するのにギリギリでしょ。それでも私を喜ばせようと思ってくれたんでしょ」
「うん。俺、あの祭りの時リサちゃんに一目ぼれしたんだ。でもリサちゃんは三岡がすぐに好きになったのわかったから、俺は二人を応援しようって思ってさ」
「そっか。やっぱりそうだったのか。私の気持ちも周りにはバレてたんだね」
私は不思議と落ち着いていた。
「三岡だって……」
「トモ、もうお節介はやめよう。トモから話を聞いても私は何も嬉しくないんだ。そういうことは本人から聞かないと意味がない」
「ごめん、でしゃばったことして」
その後お互い何を話したか覚えてない。
電話を切って、ため息だけがでたような気がする。