遠星のささやき

第六章 予期していた恐れ

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 三岡君と心が通じ合って嬉しい反面、また自分の悪い癖が出てくる。
 素直に受け入れてそれを自分に取り込むことができない私の性格。
 カラオケでふとよぎったインスピレーションがかなり影響している。
 
 昔から変な予感が当たることがある。
 どこかへ出かけて行くとき、私が行けば雨になる、いわゆる雨女の件。
 避けたい事をクジで決めるときも、これ絶対私が当たると思って引くと本当に当たりとか。
 だから不意によぎる感覚に私は振り回される。
 一番びっくりしたのが、ふと中学の時の全く面識のない先輩のことを思い出したら、次の日その人が事故で亡くなったと新聞に載っていたことを知って、血の 気が引いたことがあった。
 この話をすると皆引いて、不意に自分のことは思い出さないでくれとよく言われる。
 佳奈美に話すと、同じようなことを経験するらしく、こういうことは笑ってただの偶然とか言うが、佳奈美の場合は私と違ってことがいい方向に向いているの でまた私の予感とはちょっと違う。
 当たり付きの自動販売機でジュースを買って当たると思うと、本当にもう一本出てきたり、予報では雨なのに佳奈美が出かけると雨が全く降らなかったりす る。
 私とは正反対の予感。
 人間そういう感覚を少なからず持ってるものなのかもしれない。
 私の場合は危険をキャッチする能力があるとでも言っておこう。
 良いように言ったところで歓迎するものでもないけど。

 暗く考えるよりも、もっと素直に今のこの幸せを私は楽しむべきだと、私は自分の部屋に電話を持ち込む。
 こそこそとするところが父も母も怪しんで気になってはいただろうが、テレビを観ている最中だったから何も言わず仕舞い。
 部屋に戻りふーっと息を吐いて気分を落ち着かせ、電話のダイヤルをプッシュする。
 トモもわかってるのか、絶対トモが最初に出ることはない。
 すぐに三岡君が待ってたかのように出てくる。
 電話から伝わる三岡君の声。
 側にいなくてもやっぱり心は通じてるんだって安心できる。

 本当は今すぐにでも会いたい。
 期末試験が終わるまでの辛抱。
 それが終わればまた春休みを迎えるだけの日々になる。
 その時に思いっきり会えると思うと楽しみは後にと我慢ができた。
 春といえば、あのお祭り。
 三岡君達と出会って一年。
 思い出深きあの季節。
 三岡君も同じ思いを抱いているのか洩れるように声を出した。
「あれから一年か……」
「そうだね。今思うと運命の出会いだったのかも」
「ああ、そうだな」

 そんな会話ですら心が満たされる。
 お互い顔は見えなくても、電話の受話器を持ちながらあのときのことを同時に思い出していたと思う。
 少しだけ間が空いた。
 その後二人して笑うと、春風が心に吹いたように温かい気持ちになった。
 電話を切った後も、余韻が残ってほんわかする。
 期末試験が終わるまで会えなくても、電話で充分私は心が満たされた。
 
 そして期末試験が終わり、なんとか赤点も免れてこれで高校二年生に上がれるその時、気がかかりのことが一つ減った。
 この後考えることは三岡君のこと一色。
 ずっと電話だけだったから、早く会いたい。
 今度こそは二人だけで会いたいと強く願ってしまう。
 できたらあの想い出のお祭りに一緒に行けたらいいなとまで脳内で妄想している。
 雨の中、悲しみにひしがれて、震えていたあの時の自分が懐かしい。
 そこまで余裕ができて自分でも調子に乗ってると自覚していたが、ここまで来るには辛い思いで苦しかったこともあるだけに、これぐらい有頂天になっても罪 はないとちょっと自分に甘めでいいかな。
 それがあるから、こうやってハッピーエンドになれてよかったって、感慨深くもあるけど。
 そして顔が自然ににやけてしまった。
 まだ自分がクラスに居たことも忘れて──。
 これは恥ずかしいと気がついたとき、咄嗟に顔を少し伏せるように下を向いた。
 誰にも見られてませんようにと願っていたが、周りを確認する勇気もなかった。
 ここで誰かと目が合ってしまったらもっと恥ずかしくなったに違いない。
 知らぬが仏で、暫くシラを切るようにうつむいていた。

 今週末は久しぶりに三岡君と会う約束をしている。
 またうっちゃんがおまけでついて来そうな気もしないではないけど、いつかは二人っきりのときもあるだろうと、その時は諦める覚悟も添えていた。
 焦ることはない。
 三岡君のことだから、私とちゃんと向き合ってくれる。
 この時はそれで満足だった。
 そして日曜日のデートが本当に待ち遠しかった。
 この時私の心のボルテージも絶頂期。
 あのいつもの待ち合わせの場所に行くまでは──。

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