第一章


 クレートをキャプテンに率いる宇宙船は、キャンピングカーのように生活する空間を備えている。
 デリバリーの仕事のために荷物を収容できる貨物室が胴体下や後尾にあり、また配達しやすいように小型の宇宙船も装備していた。
 船全体は、小さな鳥か蜂を思わせるような丸みを帯びたずんぐりむっくりな形にも見えるが、見掛けはひ弱でもいざというときのための攻撃デバイスはしっかりとついている。
 まだ仕事は波には乗っていないが、何度か実績の経験はあり、コツコツと少しでも信用度を高めようとしていた。
 地球と火星の間にはコロニーや人工惑星が多数存在し、その間でやりとりされる荷物の取引の仕事を手に入れようと必死だった。
 地球の周りには特に多くのコロニーが土星の輪のようになって連なっている。
 この辺りは密集していることもあり、こまめに動け、また火星へ行くにも、亜空間トンネルを作り出し距離が短縮できる超高速航法があり、それを使うと簡単に移動できるようになっていた。
 全てはエイリー族がもたらした技術であり、この調子で開発され続ければ、さらに人類が宇宙で暮らせる範囲が広まるのかもしれない。
 エイリー族がどこから来たのか、それを考えれば、この先もっと他の宇宙人との交流が始まっていく可能性もある。
 その前に地球を取り戻さねば、人類はこのままでは消滅していきかねそうで、特に宇宙で暮らしている者にとっては狭い範囲でしか動けない不自由さを感じてしまう。
 反乱を起こしたくとも、エイリー族は人類を遥かに越えたテクノロジーとその頭脳を持ってることで力の大きさが全く違う。 下手に反旗を翻せば容赦なく瞬時で抹殺されるのが目にみえ、中々太刀打ちできないものがあった。
 外からではどんなに攻撃しても圧倒的な強さでそれは打ち砕かれてしまう。
 人類など彼らにとっては赤子の首をひねるようなものだった。
 だからこそ、内側へなんとかして潜り込んで周到に計画しないと意味がない。
 中の様子が全く伝わってこないだけに、情報を集めるだけでも次へのステップに続く。
 クレートはいかにして潜りこめるのか、いつもそれを考えると思うように事が運ばないことに歯がゆくなってしまうのだった。
 目の前に常に青い地球が見え、それを見ながら思いを募らせては、そこへ行ってみたいという欲求がどんどん強くなっていく。
 子供の頃はネオアースに憧れ、いつか訪れると明るく希望を持っていたが、大きくなるにつれそれが不可能と強く前に邪魔者が立ちはだかるのを知って、理不尽に思ったものだった。
 だが、あからさまに逆らうことをすれば容赦はないということも同時に学び、それらは極秘に世代を超えて地球奪回プロジェクトは構想され続けてきた。
 まともにぶつかれないのなら、やれることを見つけて、穴をあけていかなければならない。
 それは、堅実で確かな手で公正的に進めていく。
 アクアロイドとのやり取りで、自分の焦る部分を説明するのは、クレートには腹立ちしか感じなかった。
 感情を普段、表に出さないようにしているのは、本心をどこまで隠せてプロジェクトが進められるかの修行の一環みたいなものだったが、簡単に取り乱したことでクレートは落ち込んでいた。
「私もまだまだだ」
 狭いうなぎの寝床のような空間で、小さなベッドの上に寝転びながらクレートは考える。
「あのアクアロイドは何か隠しているに違いない」
 どうしても記憶喪失という部分が信じられず、クレートもまた信用置けないと警戒していた。
 その反面、ネオアースからの使者でもあり、役に立てないかとも考えていた。
「一体、あいつはどこへ何をしに行こうとしていたのか」
 クレートは目的地に着いたときのことが、吉とでるのか凶とでるのか、どこか落ち着かないでいた。
 そうしているうちに、部屋のスピーカーからマイキーの声がした。
「クレート、そろそろ、目的地に着く頃だ。すぐ来てくれ」
 クレートはすぐさまベッドから立ち上がり、操縦室へ急いだ。
 その目の前にあるものは、善か悪か、はたまたそれ以外の何ものでもないのだろうか。
 ネオアース軍に関係するアクアロイドと接点をもったことで、どこか、勝負を賭ける燃え滾った興奮が血を騒がせる。
 心臓が派手にドキドキとしていた。
inserted by FC2 system