第二章


「一体、誰があそこにアレを置いたんだ?」
 自分達の部屋に向かう途中、マスカートが先に二階に続く階段を上ろうとしていたムッカとカルマンに問い質した。
「俺だって、知らないよ」
 ムッカが怪しくカルマンを一瞥した。
「なんだよ、僕がやったっていいたいのかい? 僕じゃないよ」
「マスカートでもなく、俺でもなく、カルマンじゃなければ誰だよ。バルジがあんなミスする訳ないし」
 ムッカはやはりカルマンを怪しげに見ていた。
「バルジは全く疑われないのに、僕だけは簡単に疑われるなんて、その差はなんだよ」
「だって、カルマンはこの屋敷でコソコソなんかしてるし、立ち入り禁止のリーフの書斎に入ろうとして見つかって怒られたこともあるだろ。全てにおいてだらしないんだよ。それに比べバルジは人一倍用心深く、ミスはめったにしないからさ。リーフだってその点は一目置いてる。この四人の中で一番信用おけるからさ」
 マスカートが補足した。
「いや、あれは私が悪い」
 片づけを終えたバルジが三人の後ろから現れた。
「えっ、まさか……」
「マスカート、本人が白状してるのに、まだ信じないのか。僕とはえらい違いの待遇だな」
「そんなの当たり前だろ。カルマンはいい加減だからさ。だけどバルジがあのままにしておくなんて俺も信じられないぜ」
 ムッカは不思議そうに首を傾げる。
「すまない。まさかあの部屋を使うとは思わなかった。あそこは日当たりがいいし、虫干しするには都合がよかった」
「だけど、ジュジュをあの部屋に連れていく時点で、気がつかなかったというのもなぁ」
 マスカートも違和感を覚え、怪訝な表情だった。
「私とて、完璧じゃない。時には忘れる事もある」
「しかし、一番アレに神経使ってるバルジが……」
 マスカートのしつこさに、バルジは眉間に眉を寄せ、鬱陶しがった。
「リーフが留守だから少し油断してしまった。本当にすまない」
 バルジが潔く頭を下げるが、それでも何かが引っかかりマスカートとムッカは困惑したままだった。
「バルジが素直に謝っているのに、なぜ二人はそれを受け入れてやれないんだ。バルジだってたまにはミスを犯す事もあるさ。あー、わかった。二人はこれ見よがしに、バルジを責めたいってことか」
「違う。別に責めてるわけではない。ただ信じられないだけだ。それほどありえない出来事にびっくりしてるだけさ」
 マスカートは強く否定し、いい訳するが、しつこくバルジに問い質せば、結局は責めてることと変わらない。バルジにしてはあまりにも初歩的なミスだが、ジュジュがやってきたことで何かが狂ったと思えば辻褄が合う気もする。
 特にバルジはジュジュを手助けし、モンモンシューも可愛がっていただけに、一時的に気が緩んでいてもおかしくはなかった。
 バルジは全ての責任を取るつもりで、深々とマスカートを見つめていた。
「わかった、もういい。ジュジュもこの屋敷の恥かしい事情として深く追求してはいけないと察してくれた。この件についてはうまく誤魔化せたってことだ。とにかくこれからは気をつけるんだ」
「ああ、わかった。気をつける」
 どこかほっとしたような安堵の気持ちが、バルジの目つきを少し和らげた。
「だけどさ、ジュジュが居ると、皆何かいつもと違う影響を受けてるんだよ。マスカートもさ、どさくさにまぎれて大胆にジュジュに抱きついてたしさ、悪いことばかりでもないじゃないか。少なくともマスカートは得したね」
「カルマン、いい加減にしろ。あれは咄嗟の行動がああなっただけで、別に下心をもってジュジュを襲ったわけではない」
「何も襲ったとまではいってないよ。理由はなんであれ、久々にかわいい女の子を抱けて羨ましいなって思ったまでさ」
「お前はそんないやらしい気持ちでジュジュを見てるのか?」
 ムッカが呆れてカルマンの頭をこついた。
「むやみに手を出さないでよ。ムッカはすぐに暴力奮うんだから」
「馬鹿、これは暴力じゃない。お仕置きみたいなものだ。お前は大げさで、ほんとに人聞きの悪いことばかり言うよな」
「とにかくさ、皆はジュジュがここにやってきてなんとも思わないのかい? 僕はとても興味があるな。それにジュジュがここに来た理由が、助けてくれた時の お礼をしたいってことだろ。こんな危ない森の中に女の子一人でやってくるんだよ。これって、その助けて貰った人に会いたいから来たってことじゃないの?」
 カルマンはいたずらっぽい笑みを浮かべて、意味ありげに一人一人の顔を見ながら問いかけた。
「お前は一体何がいいたいんだ?」
 マスカートが苛立って言った。
「んもう、皆、わかってるくせに紳士ぶるんだから。これって、好きな人に会いに来たってことなのさ。助けて貰った時に惚れたってことなんだよ」
「ちょっと待てカルマン。それって俺達の中の誰かに惚れてるってことなのか?」
 ムッカが思わず声を張り上げた。
「でも、それだとおかしい。ジュジュは私達とは初対面のように見えた。それに私達もジュジュの事ははっきりと覚えてない」
 珍しくバルジが反論した。
「ジュジュにはきっとなんらかの事情があったんだと思う。助けて貰った時、意識が朦朧としてたとか、気が動転してたとか、恐怖やショックで記憶があやふや になる状態だったんだと思う。だからジュジュも誰に助けて貰ったかはっきりとわかってない。この屋敷に来ればそれがわかると思ったから、彼女は無理してこ こまでやってきたんだよ」
「まあ、カルマンのいう事が正しいと仮定して、だったら一体この中の誰がジュジュを助けたんだ。助けた方はさすがに覚えているんじゃないのか?」
 マスカートが一人一人の顔を見ていく。
「マスカートがその質問をするという事は、あんたじゃないってことだね。それともただ思い出せないだけなのか……」
「そういうカルマンも、該当者じゃなさそうだぜ。お前なら、『ぼく、ぼく、ぼくだよ』って真っ先に自ら主張して、自分にわざとらしくジュジュに恩を着せようとするだろうし」
「なんだよ、ムッカ。皮肉っぽい言い方だな」
「はぁ? お前の方が10倍も辛辣な言い方するくせに」
「僕は、いつも真実を語ってるだけさ」
「よくそんな事がいえるな」
 ムッカはまた手が出そうになり、拳を振り上げると、カルマンは受けて立とうと咄嗟に構えた。
「二人ともやめるんだ」
 マスカートが間に入り止めた。それでも燻った状態が続き、ムッカとカルマンはマスカートを挟んでちょっかい出し合っていた。
 三人が揉めている時、一人バルジだけが考えごとでもするように、うわの空になって突っ立っている。マスカートが違和感を持って見つめると、残りの二人もバルジの行動が気になって動きが止まった。
「バルジ、どうかしたのか?」
 マスカートが訪ねたが、バルジの体は微動だにしなかったとはいえ、ぼんやりとしていた瞳が急に焦点を合わせて少し不安定な動きを見せた。その一瞬を三人は見逃さなかった。バルジはそれを誤魔化そうとする。
「いや、なんでもない」
「バルジにしては珍しいな。なんでもないようには見えないけど。何か心当たりでもあるの? もしかしてバルジが助けたの?」
 あどけない表情を装ってるがカルマンの瞳がギラギラして、何かを探りたそうにしている。
「私じゃない。ただ……」
 バルジはその後の言葉が続けられず、暫く沈黙が広がった。
「もう、言いかけといて、途中でやめないでよ。知ってることがあるんだったら僕たちにも教えてよ」
 カルマンは素直に好奇心丸出しにして問い詰める。側で見ていたマスカートとムッカも面と向かって本音は口に出さないが、この時カルマンと同じ思いだった。
 普段無口なバルジが注目を浴びる事はめったにないだけ、三人から同時に意見を求められる行為は居心地の悪いものだった。それとも、口に出せない事情があるのか、バルジもこの時ばかりは目を泳がせていた。
「大したことではない。もしかしたらリーフが助けたのかと思ったまでだ」
「えっ? リーフが? それはないでしょ。あの人はしょっちゅう留守がちだし、森の中にもめったに行かないし、この屋敷の事はいつも僕たち任せじゃないか」
 カルマンはありえないと、首を横に振って呆れていた。
「あの人が私たちを雇ったのも、この屋敷周辺を守るためで、はなっから人助けなんてしようとも思ってなかった……」
 マスカートもカルマンと同じ意見で、その点に関しては違うと言いきれたが、リーフが人助けに係わっていないという認識を改めて持った時、どこか言い終わる前にトーンが下がっていた。
「そうだよな、リーフは絶対に関与してないはずだ。人助けは俺達が勝手に持ち出した事だからな……」
 ムッカもマスカートと同様、同じ思いに駆られてどこか言いにくそうだった。
「人助けの部分は僕たちが始めたビジネスだからって、何もそんなにリーフに対して遠慮することなんてないじゃないか。僕たちのお蔭で、この屋敷も潤うよう になったし、リーフは逆に感謝すべきなことじゃないの。一々誰を助けたとかリーフには報告してないけど、リーフもその点は自由にやっていいって思ってる よ。リーフは僕たちが何をやってるかはっきりとは知らないんだから。ただこの森では有名になって勇者として名声が上がってることは知ってるだろうけど。そ れだけ僕たちが優れた人材だって印象ついてるよ」
 カルマンは自分のやってることに自信を持った上で、堂々としていた。そのカルマンの潔い態度に、マスカートとムッカはお互い顔を合わせ、面映くなっていた。
「とにかくだ、僕たちのやってるビジネスにリーフは一切関与してないし、もし、ジュジュを助けてこの屋敷に連れてきたとしたら、その時、当然僕たちも見て いるはずだ。今までリーフが人を助けてここに連れてきた事は一度もなかった。リーフは余程の知り合いじゃない限り、自分で人を屋敷に招く事は極力避ける し、いつも部屋に閉じこもりがちだ」
 「そこはカルマンの言う通りだと私も思う」とマスカートが同意すると、ムッカも頷いていた。
「それじゃ、私達の誰もがジュジュを助けてないということになる。ジュジュの勘違いなのかもしれない」
 バルジが締めくくった。
「でも勘違いにしては当てはまりすぎなんだよな。この森の中で、ジュジュが言う、暖炉があって肖像画が掛かってるような屋敷はここだけだし、ジュジュはこ の屋敷に来たことがあるって思ったから、ここに居たいって望んでるんだろ。それに僕、助けた覚えはないんだけど、なんだか顔を見たような気がするんだ」
「えっ、カルマンはジュジュを見たことがあるのか?」
 ずっと黙って聞いていたバルジが思わず口を突いた。
「はっきりは思い出せないんだけど、どこかでみたような気がするんだ」
「私達は色んな人と出会い、有名なこともあり結構顔を知られている。町に行けば向こうから声を掛けてくる輩も多い。すれ違ってる可能性もあるのかもしれない」
 マスカートが答えた。
「または、助けた誰かの知り合いで、話を聞いて私達に憧れて適当に嘘をついてる可能性もある」
「えっ、バルジがそんな事を言うなんて、らしくないな。それにジュジュは嘘をつくような子じゃないのはバルジが一番感じ取ってるんじゃないの?」
 カルマンに突っ込まれて、バルジは黙ってしまった。全くその通りだった。自分の軽はずみな発言がこの時になって恥と思ってしまう。
「とにかく、俺達は沢山人と出会い過ぎたという事もあるし、もしかしたらその時と今の風貌が違っているから思い出せないだけかもしれない。実際覚えてないだけで、まとめて団体さんを助けたときに紛れていたのかもしれない」
 ムッカは心当たりがないか必死に考え込んで、顔を歪ませていた。
「確かに沢山の人と係わったが、一人一人全てを間違いなく思いだせるかとか言われたら、無理だ。大概忘れた分類にカテゴライズする方が早い」
 マスカートも、自分の記憶力には自信なかった。
「だけど、ジュジュの言ってることが正しいのなら、一体誰が助けてここに連れてきたんだろう?」
 カルマンも腕を組み首を傾げていた。
「ま、まさか……」
 考え込んで首をうな垂れがちだったマスカートが、突然はっとして顔を上げると、ムッカも何を意図するかすぐに気がついて目を見開いた。
「まさか、それはないって。絶対ありえないって。アイツがここに入って来られる訳がないじゃないか。それにそうだとしたら、ジュジュはそいつが好きってことになるぞ。そんな恐ろしい事、あってはならない」
 ムッカはいかにもおぞましいと体を震えさせた。
「それは僕もありえないと思う。リーフが絶対にこの屋敷に近づけさせないだろうし、アイツだって立場をわきまえてるだろう。だって敵なんだから」
 カルマンも手をヒラヒラさせて否定した。
「アイツの話はやめよう。変に姿を現しそうで縁起悪い」
「なんだよ、言いだしっぺはマスカートの癖に。だったら始めから変なこと言うなよ」
 マスカートの思いつきで振り回されたムッカは少し気分を害していた。
「すまない。すまない。それにしても、本当にジュジュを助けた奴がこの屋敷にいるのか?」
 また話は堂々巡りとなり、どう考えても誰もジュジュに関することが過去の記憶と結びつかなかった。
「こうなったら、いくら考えてもわからないんだからさ、このままジュジュの夢を壊さないように、僕たちが助けたという事にして、この中の僕たちの誰かに惚 れてもらえばいいんじゃないの? これも人助けにならない? ジュジュは中々かわいいし、僕は結構好みだから、惚れてもらったら嬉しいな」
「カルマン、これは遊びじゃないんだぞ」
「マスカートは、過去の女の事で引きずってるからって、ネガティブだな。本能ではあんなにジュジュを羽交い絞めにする程抱きしめてたのに。あの時、ムラムラしなかったの?」
「おい、なんてことを言うんだ、いい加減にしろ!! その減らず口を縫ってしまうぞ」
「男同士で何を恥かしがってんだよ。こういうときこそ、リハビリだと思って過去の嫌な思いから抜け出すときじゃないか。今克服しないと、一生後を引きずっ たままで惨めなままだよ。もしジュジュがマスカートを好きになったら、過去の呪縛から解き放たれるんだ。マスカートだって、ジュジュの事悪くないと思って るだろ? 抱きしめた時の事もう一度思い出してみたらどう?」
 カルマンに言われるとマスカートはジュジュを抱きしめた時の感触を思い出し、そしてジュジュからも抱きつかれた時の事が咄嗟に浮かんだ。確かにジュジュ は普通の女の子とは違う無邪気さがあり、それがとても心地よく好感が持てる。カルマンの言い分も一理あるように思えるから、自分でも訳がわからなくなって いた。
「カルマン、黙れ。お前が何かいうと、話は脱線し、訳のわからない方向へ行くんだ。一体俺達何話してるんだよ」
 ムッカの一声で皆我に返った。
 見られては困るものを排除した後、取り留めもなく話は色んな方向へ進んで、要点を得なくなっていた。皆どこかで化けの皮がはがれることを恐れ、隠したい事を深層心理のように奥深くしまい込んでいる。
 そんな時にそれらに係わる心配事や疑問がでてくると、皆思い思いの考えの中で溺れてしまうのだった。
 次から次へと出てくる問題と心配事。
 ジュジュが係わったことで明らかに影響が出ていた。ジュジュがこの屋敷で働いてくれる事は素直に嬉しいが、そのせいで不安な事も増えて行く。本当にやっていけるのか、隠したい事は隠し通せるのか。
 この屋敷には公にできない、いや人には絶対に知られてはならない、いくつかの秘密が存在している。
 それは一人一人が個々に抱えていることもあり複雑に絡み合っていた。
「ねぇ、皆、ジュジュがここに来た以上、これはもう解決策の一つとしてやるしかないと思うんだけど、ジュジュにはこの中の誰かに惚れて貰うしかないと思う。そうすれば、ジュジュは僕たちの仲間になるんだから。もしものためにも是非ともそうなってもらわないと」
 もしものために──。
 この一言が、弱みとなってカルマンのアイデアが得策と思えてしまう。
「そういえば、ジュジュは可愛いし、料理も上手いし、色々と気がつく子だよな。振舞いもどこか物腰柔らかく、上品だ。時折ふと見せる表情も気品がある」
 ムッカがぼそっと言った。
「確かにジュジュは柔らかく、抱き心地は悪くなかった…… コホン」
 マスカートまで正直な感想を言ってしまう始末だった。
「だったら決まり。ジュジュは一体この中の誰を選んでくれるんだろうね。なんか僕楽しくなってきちゃった。こういう楽しみがあっても罰はあたらないと思うよ」
 まるで楽しくゲームでもするように、カルマンは楽しんでいた。
「私は、反対だ。ジュジュは玩具じゃない。そんな事を考えるのなら、ジュジュにはこの屋敷から出て行ってもらう」
 普段は皆が決めたことに反論もせずに従うバルジが、反対した。
「別に、バルジに参加して欲しいとは僕たち思ってないよ。それにジュジュは誰に助けて貰ったのかはっきりとわかるまでは、絶対にこの屋敷から出て行かないと思うよ」
 バルジはいつになく露骨に気持ちを害し、強くカルマンをにらみつけると、無言で去っていった。
 マスカートもムッカも何か言おうとしたが、バルジの後姿から怒りを感じて、言葉を引っ込めてしまった。
「あのバルジが怒った。今日のバルジはいつものバルジらしくないというのか、どこか変だ」
「放って置いても大丈夫だよ、マスカート。バルジは自分が何をしてるか一番わかってると思うよ。多分、バルジは本気でジュジュが気に入ってるんだと思う。 自分でも戸惑ってるのさ。あんなミスを犯すぐらい、気をとられていたんだから。ジュジュのことに関しては繊細になってるんだよ。ジュジュが僕たちの中の誰 かを好きになるのが気に食わないだけなんだと思うよ」
 カルマンの説明にマスカートは全面的に同意できず、ただ小さな溜息を吐いて返事を誤魔化した。
 その側で、ムッカは苦虫を噛んだ様な顔をして困惑していた。
「二人とも、そんなに気が乗らないなら、僕はガンガン攻めさせてもらう。奥の手も使っちゃおうかな」
「おい、その奥の手ってなんだよ」
 ムッカが突っ込んだ。
「それは秘密。それじゃ僕はこれで寝るよ。なんか今日は疲れたな」
 カルマンは両手を上げ、伸びをしながら階段をさっさと上って去っていった。
「一体、カルマンは何をしようとするつもりだ? あいつまさか、無理やり……」
 ムッカの言葉で、マスカートははっとした。
「カルマンはどこか危なっかしいから、その可能性を考えられるのが私は恐ろしいよ。なんとしてでもジュジュをカルマンから守らないと」
「だったら俺達のどっちかに惚れて貰うしかないじゃないか」
「それもなぁ、なんでこんな話になってしまったのか。ムッカはまじで首突っ込むつもりか?」
「でもさ、ジュジュに嫌われることだけは避けたいとは思う。もしものためにも」
「それもそうだな。とにかく、リーフが帰ってくるのを待つしかないな。リーフがどう判断するかだ」
「俺、複雑だな。ジュジュにはここに居て欲しいけど、カルマンの変な言いがかりで、ここに居ちゃいけないとも思う。俺、訳わかんないぜ」
「とにかく、今日はもう寝ることだ。ここで話し合っていてもなんの解決もならない」
 二人は自分の部屋へと向かった。
 男達がそれぞれの自分の部屋に入れば、屋敷は夜の闇に閉じ込められるように静かになった。
 ジュジュもまたベッドに潜り、色んな思いを巡らせながら休んでいる。枕元ではすでに寝入ってしまったモンモンシューが丸くなって寝息を立てていた。その小さくなった姿は、申し訳ないと思いながらも、とてもかわいらしいものだった。
 もし大きいままであったなら、この屋敷に一緒に居られなかっただけに、モンモンシューが側に居てくれるのは心強いものがあった。
 複雑な心境とこの先どうなるのかを考えると、ジュジュは心細くなり溜息を吐いてしまう。しかし、そんな弱気になっても仕方がないと気持ちを奮い起こした。
「とにかく、寝なくっちゃ」
 太陽が昇ればまた何かアイデアが浮かぶかもしれない。
 きっとなんとかなる。
 そんな思いを抱いて、ベッドの隣の台の上に置いてあったランプの灯を消そうとした時、突然ドアをノックする音が聞こえた。
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