エピローグ そして終わりは・・・


 カルマンが馬に乗って屋敷に戻れば、皆から非難轟々とされた。
 カルマンが戻ってきたことで、ラジーはこれ以上のトラブルはごめんだと、さっさと屋敷を去っていった。
 その後、カルマンは自分が魔術師だという事を暴露し、年老いたリーフの事を伝えた。最後に皆に一生をかけて償うからと許しを請うた。
 年老いたリーフの話が出たところで、バルジがこの屋敷の秘密をみんなに教えた。自分の父親がオーガであるという事も包み隠さず話した。
「そっか、そういうことだったのか。でもバルジはみんなの中で一番誠実でできた人間だ。親が出来た人だからだと私は思う」
 マスカートが言った。
「バルジはバルジだ。俺にとっては友達にかわらないぜ」
 ムッカは握手を求め、変わらない友情を求めていた。
「バルジ、なんかかっこいいな。僕と組めば最強のコンビになりそう」
「カルマン、お前全然反省してないだろ」
 ムッカに頭をぺちっと叩かれ、カルマンは全然違う方向を見て「叩かないで」と言った。
「おいおい、俺はこっちだ」
「だって見えないんだもん。ウェーン」
「このまま泣かれたらうるさくて仕方がないぜ、マスカート薬草作ってやれよ」
「ムッカは僕の事許してくれるの?」
「許すも何も、本物のリーフがお前を抹殺しなかったという事は、やっぱりそういうことなんだろ」
「ありがとう、ムッカ」
 カルマンは抱きつこうとするが、ムッカに頭を押さえられてその場でじたばたしていた。
「いいか、これからは心を入れ替えるという事が条件だ」
「わかった。僕、いい子になるよ」
「お前は、ガキか!」
 その様子をバルジはモンモンシューと戯れながら見ていた。
 マスカートが薬草を作り、それを飲ませた一時間後、カルマンの目は次第に見えてきた。嬉しさのあまりマスカートに抱きついた。
「あっ、見える、見えるよ! やった! ありがとうマスカート。やっぱりマスカートの薬草は即効性が違うね。本当にすごい。僕の魔術なんて比べ物にならないよ」
「わかったから、離れなさい」
「さて、落ち着いたところでリーフの書斎を片付けるか」
 バルジが向かうとモンモンシューも後をつけていた。残りの三人も同じようについていく。
「へぇ中はこんな風になってたんだ。俺、初めて入った。隠し扉なんかあるんだ。すげぇ」
 珍しそうにムッカは見ていた。
 マスカートは隠し部屋で見たアレ──即ちそれはオーガの仮面と衣装である──をじっと見ていた。
「このオーガの衣装がこの屋敷に二つあるとは思わなかった。そうかこれはリーフ、いや、セイボルの分だったのか。これがあの使用人の部屋に置いてあったものか」
「ああ、そうだ。セイボルはたまにアレを来てこの屋敷周辺を脅かしてたんだ。その後で衣装を脱いでまたセイボルの役をしたりして、いかにもこの森を支配しているように振舞った」
「そしてリーフのフリもした訳か。大変だなセイボルも」
 着替えているところや、演じ分けているところを想像すると、笑えてきてしまい、マスカートは一人で受けていた。
「使用人の部屋は誰も使わないし、忘れられていたから、あそこに衣装を置いて気軽に外と中を出入りしていた。長く使わない時は隠したのだろうが、頻繁に着 替えないといけない時は、面倒臭くなったのかもしれない。私もこの屋敷を充分に管理しきれてなく、ジュジュがあの部屋に案内された時は気がつかなかったん だ」
「なる程、道理でバルジらしくないと思ったぜ」
 ムッカも笑っていた。
「あれ、これ…… そうだ、この絵だ」
 カルマンが落ちて裏向いていた額縁を拾ってまじまじと絵を見ていた。
 マスカートとムッカが覗き込むと、そこには鏡の前で髪を梳いて、かわいらしく笑っている少女のスケッチ画があった。
「これ、ジュジュじゃないか。なんでこれがここに」
 マスカートが驚いた。
「やっぱりこれジュジュだよね。僕、この絵を見た事があったんだ。リーフ、いや、今はセイボルか、そのセイボルが、これをここへ運ぶ途中だったのかもしれないけど、廊下で手元から落ちたのを、僕はちらっと見たんだ。だからジュジュを見たとき初めて会った気がしなかった」
「なんて生き生きした笑顔でかわいいんだ。こんなの毎日見てたら、惚れるぜ」
 ムッカはセイボルに対して肘鉄をくらわしたい気分だった。
「でもこれ、プリンセス ジュネッタージュってここに書いてないか」
 マスカートが目を凝らしていた。
「あれ、僕言わなかったっけ。ジュジュは天空の国の王女様だよ」
「えっ!」
 マスカートとムッカは驚いていた。バルジが驚いてないのはすでに知っていたことを表していた。
「そうだ、チビ、ちょっとおいで」
 カルマンが呼ぶと、モンモンシューは訝しげな顔をして近づいた。
「ごめんごめん。もう僕は悪いことしないから安心して。それより、元の体に戻さないとな」
 「カルマンどういうことだ?」とマスカート。
「チビは本当はドラゴンなんだ。僕が偶然魔術でこんな風にしてしまったんだ」
「えっ、ドラゴン?! このチビが? 一体本当はどれくらいの大きさなんだ」
 ムッカが顔を近づけると、モンモンシューは胸を突き出して得意げになっていた。
「でもチビはこの方がいいと思うんだけどね。大きくなったら一緒に過ごせなくなるのがさみしいよ」
 カルマンが、モンモンシューを抱き上げ、顔をくっつけてすりすりする。
「モキュー」
 モンモンシューは複雑な気持ちになって首を傾げていた。
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