第六章


 ユメが作ってくれた朝ごはんを、ちゃぶ台を囲んで皆で食べる。
 目玉焼きに、トースト、コーヒー、そしてセールで安かったという買いだめしていたヨーグルトを出してくれ、俺は遠慮なく頂いた。
 異母姉妹だけども、二人を見ていたら普通の姉妹と変わらない。
 よく見れば、この二人にも共通点があった。
 ノゾミの目の形が、姉の目の形となんとなく似ていた。
 今、ユメは化粧前のすっぴんだから、それが良く見えた。
「天見君、何をそんなに私の顔をみてるのかしら。そんなにすっぴんだと別人にみえるって言いたいの?」
「そうじゃなくて、姉妹だから似てるところがあるなって、思ったんです。化粧してたらわからなかったです」
「だって、姉妹ですもの。ねっ、ノゾミ」
「うん」
 ユメはいい姉になろうとしているのが良く見える。
 そんな姉をノゾミなら益々好きになって行くことだろう。
 俺はこれからセイとどう向き合っていくべきなのか、この姉妹を見ながら色々と考えていた。
 でもまだすぐには気持ちを切り替えられない。
「だけどさ、どうして俺の弟と知り合ったんだ?」
 何気に浮かんだ疑問だった。
 トーストをかじろうとしているノゾミに顔を向けると、ノゾミは持っていたパンをお皿に置いた。
 そして下を向いて黙り込んだ。
「どうしたのノゾミ?」
 ユメが俺を代弁して訊いた。
 俺たちがじっと見つめていると、答えざるを得なくなって口を開く。
「覚えてない」
「ノゾミ、なんか隠してるでしょ。余程、人に言えない出会い方なの? それだと益々知りたくなるじゃない」
 ユメが突っ込んでもノゾミは頑なに口を閉じ、首を横に振るだけだった。
 それがとても不自然で、俺は妙に納得できないものがあった。
 まるで俺が知ってはいけないような──
 そんな時、鋭い目をした男の顔が一瞬頭に浮かび、すぐさま消えた。
 あれ、俺、もっと早くにセイに会っていたような気がする。
 思い出そうとすると、逃げるように記憶が消えてしまった。
 ノゾミを見れば、何事もなかったように、またトーストを手に取り、口元に運ぶ。
 小さく口をあけ、もそもそと元気なく食べていた。

 すっかり世話になってしまったユメにお礼を言って、そこを出たのは9時を過ぎた頃だった。
 ノゾミも俺について来て、一緒に肩を並べて歩いている。
「このまま、どこかへ行こうか」
 俺はノゾミとデートを楽しみたかった。
 それなのにノゾミは浮かない顔をして躊躇っている。
「あの、折角なんですけど、ちょっと今日は……」
「何か用事でもあるのか?」
「いえ、その、ちょっと体調が悪くて」
 そういえば、朝早くにやってきたノゾミは疲れていた。
 そして相変わらず、貧血を起こしそうに顔が青白い。
 その時俺ははっとした。
 もしかしてアノ日……
「ご、ごめん。無理には誘うつもりはないから。そっか体は冷やしちゃだめだぞ。早く帰った方がいいな」
 急に慌ててしまった俺の顔を、ノゾミは不思議そうに見ていたが、やがて、はっとして、顔を赤らめる。
 青白い時にも、恥ずかしい時は赤くなるのがノゾミだった。
「その、ち、違うんです。あの」
 俺はあたふたしているノゾミの手をそっと握った。
 ノゾミはビクッとして驚いていたが、やがてしっかりと俺の手を握り返してきた。
 ノゾミの手はひんやりと冷たかった。
 相変わらず、空はどんよりとして曇り空ではあるが、俺の今の気持ちはドキドキとして弾んでいる。
 そんな時に見る垂れ込めた雲も、雨が降らないだけ悪くなかった。
 早く梅雨が明ければいいと思った時、ノゾミとの約束の期限がどんどん迫ってることに気が付き、俺は我に返る。
 ノゾミの手をついギュッと強く握ってしまうと、ノゾミは俺を見上げていた。
 そんなノゾミの顔つきも、どこか陰りがあるように見えたのは、俺の事を心配してだろうか。
 俺もノゾミも約束の三ヶ月の期限が迫りどこか不安定になっていくようだ。
 期限まであと29日。
 とうとう一ヶ月を切ってしまった。
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