第七章


 俺がノゾミとこの先も付き合っていきたいと願ったその日。
 あまりにも唐突に、それは終わってしまった。
 一体どういうことだ。
 俺はその晩、ノゾミが作ったケーキをテーブルに置いて、じっと見つめていた。
 母がそのうち戻ってきた。
「あら、かわいいケーキね。買ってきたの?」
「いや、それが……」
 ノゾミの事を話した時、母は大げさに声を上げた。
「ああ、ノゾミちゃんか。嶺がレスポワールの事知ってたなんて、しかもノゾミちゃんと仲がよかったなんてびっくりだわ。あの子とてもいい子よね」
「俺の方が、母がレスポワールの常連と知ってもっと驚いたっていうの」
「一度ここにも来てくれたでしょ」
「えっ、ここに来た?」
「あら、覚えてないの? 昨年のあなたの誕生日にケーキ届けてくれたでしょ」
「ノゾミが?」
「ほら、いつも嶺の誕生日は、売れ残ったクリスマスケーキばかり買ってきてさ、それであなたが、嫌がって誕生日にケーキはいらないっていったでしょ。それ をレスポワールに行った時、成り行きでノゾミちゃんに話したことがあったのよ。そしたら誕生日ケーキ作らせて下さいって言ったの。ノゾミちゃん、願いが叶 う幸せのケーキを是非試して欲しいっていったの。私が仕事でその日取りに行けないからって断っても、配達しますとか言って、断りきれなくてご厚意に甘えた の。ほら覚えてない?」
 母は、食器棚の引き出しを開けてごそごそすると、中から何かを取り出した。
「あったわ。ほらこれ。ケーキについてたでしょ」
 それはl’espoirのロゴを形どったろうそくだった。ノゾミが言っていた初期のデザイン。全てがろうそくで作られている。
 これがうちの家にもあった。
「使わなかったから取って置いたの」
 俺はそれを手にして、じっと見つめた。
 おぼろげにあの時の事を思い出す。
 ダイニングテーブルで勉強していて、次第に眠たくなって突っ伏して寝てしまった。そこでドアベルが鳴り、起こされて、寝ぼけたまま対応したから、誰と話したのか覚えてない。
 ただ「お誕生日おめでとうございます!」というのはあった。
 あれがノゾミだったってことなのか。
 俺たちはすでに会っていた。
 そしてあの時のケーキは確か……
「嶺はイチゴが好きだからって言ったら、イチゴが沢山乗ったケーキ持ってきてくれたよね」
 そうだ、イチゴが沢山のっていた。
 学校に持ってきたお菓子もイチゴを使っていた。
 あれは俺が好きだと知ってたからだ。
 ノゾミ!
 思わず抱きしめたくなってしまう。
 そこまでして俺の事を。
 3ヶ月の期間はノゾミが早めに終わらせてしまったが、ノゾミも頑固だから、一応区切りをつけたと言う事なのかもしれない。
 今度は俺が告白すればいい。
 もう一度、最初からやり直す。
「俺と付き合って下さい」
 俺は脳内で、告白の練習を何度もしていた。
 だが、次の日学校に行くと、ノゾミは来てなかった。
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