第八章 もう一度君と・・・


 ノゾミのクラスメートから、この日は欠席だったと聞き、俺は心配になってしまう。
 約束を優先して俺と別れた事が関係しているのだろうか。
 それとも期末が終わり油断して、ただ単に体調を崩してしまったのか。
 最近、どこか疲れた雰囲気がしていた。
 また放課後、エスポワールに訪ねていこうかと思ったが、昨日あれだけ長居しただけに、また今日も来たとノゾミの両親に思われるのも、正直恥ずかしく行けなかった。
 気になりつつも、様子を見る事にした。
 そしてまた次の日、ノゾミに会いに行けば、前日と同じように学校を休んでいた。
 二日続けて休んでると、やはり気になってしまい、俺はノゾミの家に行ってしまった。
 今回は店に入らず、玄関の呼び鈴を鳴らした。
 母親がおっとりとした笑顔を向けて歓迎してくれたので、少し緊張が解けた。
「度々すみません。あの、ノゾミさんは学校に来られてないみたいですが、大丈夫ですか?」
「あら、心配してわざわざ来て下さったの。すみません。まあ、どうしましょ」
「何かあったんですか?」
 母の志摩子は少し声を落とし、聞かれてはまずいように辺りを確認した。
「それが、いまちょっと姉と、旅行に行ってまして」
「えっ? 旅行? まだ学校があるのに?」
 それを言われたら身も蓋もないと言いたげに、志摩子は誤魔化すように面映ゆく笑っていた。
 病気じゃなかったので、一安心したが、まさかユメと旅行に出かけてるとは驚きだった。
 長居は無用だと思い、聞くだけ聞いて俺は空気を読んであの後すぐに去った。
 どうやら旅行は前から計画してたようで、ノゾミは当日になって言い出し、キャンセルできないからとさっさと出かけたので、志摩子は止める暇もなかったらしい。
 強行突破で実行し、今週末いっぱい泊りがけで姉と有名な遊園地に出かけてしまった。
 夏休みももうすぐだというのに、わざわざ学校を休んで行ったので、志摩子もかなりバツが悪そうにしていた。
 あの真面目なノゾミがそんな事をするとは。あまりピンとこなかった。

 そして月曜日──
 すでにノゾミから早めに期限終了を告げられてしまったが、その日は約束の期限の一週間前になるはずだった。
 早速気になって朝にノゾミに会いに彼女の教室に行けば、ノゾミは悪い事をしてバレたのを怖がっているように驚いた。
 別に咎めるつもりはなかったが、本人には良心の呵責があるようだった。
 朝は慌ただしく、あまり時間がなかったので、放課後会う約束をしただけに終わった。
 その放課後だが、いつものようにまた屋上に行こうとしたら、ドアに鍵が掛かっていていた。
「なんで、鍵が掛かってるんだよ」
 俺がドアノブをガチャガチャと荒く回して、何度も試みたが、それは硬く固定されて開くことはなかった。
「気づかれたんですね。寧ろ、今までがラッキーだったんですよ」
 扉が閉ざされると、そこで終わりと言われているみたいで、縁起が悪い。
 できたら、夏のスカッとした晴れた空の下で、もう一度ノゾミと付き合いたいと告白をしたかった。
 俺は諦め、ノゾミと向き合った。
 だがノゾミは俺と目を合わせない。
 恥ずかしがってる態度じゃなく、怯えているようで怖がっている。
「どうしたノゾミ」
「先輩、もう会わない方がいいです」
「どうしてだ。俺は──」
 この後告白するつもりでいた。
 だがとことん運が悪く、この時、見知らぬ先生がやってきてしまい、俺たちは注意された。
「お前らこんなところで何やってる。ここは立ち入り禁止だぞ。最近誰かがここを開けっ放しにしてたから、見回りにきたらこれだ」
 余計な仕事を増やしやがってとでも言いたかったのだろうか。
 機嫌が悪いその態度は、こっちまで苛々と腹が立ってくる。
「ほら、早く帰れ。学校でいちゃいちゃするんじゃない」
 俺たちはこの先生のせいで後味悪くなった。
 最後の最後で邪魔をされ、俺はノゾミに告白する気分を削がれて、気持ちの整理が上手くつかない。
 暫く黙りながら昇降口まで来てしまった。
 周りは騒がしく、生徒が出入りしている。
 ノゾミと落ち着いて話せるような場所じゃなかった。
 靴を履きかえ、外に出れば、不快な暑さが体にまとわりつく。
「暑いな」
「夏ですからね」
 空を仰くノゾミ。眩しく目を細めるその目じりから、涙が流れていた。
 光が差し込んで刺激されたのだろうか。
「この夏、どうするんだ。そういえば今月末の31日、お前の誕生日だろ」
「えっ!?」
「何が欲しい? リクエスト聞いても、叶えられるかわからないけど、でも一応教えてくれ」
「先輩…… ありがとうございます。お気持ちだけで充分です」
「でもなんかあるだろ」
「だったら、私の願い叶えて下さい」
「なんだ?」
「先輩、必ず医者になって下さい」
「それは、お前の欲しいものじゃないだろ。それに医者って言われても、かなり難しいからな」
「先輩なら大丈夫。きっと──。先輩はすでに奇跡を起こしてるから」
「奇跡?」
 ノゾミは精一杯に笑う。
 校門を出ると、俺たちは左右に分かれて歩き出す。
 上手く告白できなかったが、ノゾミの誕生日にもう一度試みてみようと俺は力強く決心した。
 そして、何をプレゼントにすればいいか、考えているとき、ふとアイデアが浮かんだ。
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