Brilliant Emerald

第五章

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 その晩のこと。
 冬空の夜、星があまたに輝く空の下で、息を白くしながらトイラはジークを探した。
「ジーク、どこにいる」
「はいはい、ここに居ますよ」
 コウモリのジークがパタパタと羽をばたつかせ、トイラの前で人の姿になった。
「森の守り主について詳しく聞きたい」
「そうこなくちゃ。やっぱりあのお嬢さんの件でしょ」
 「えへん」とトイラはそれを聞くなと牽制するように一回咳払いをして話し出した。
「一体どこからその情報を仕入れた」
「森の守り主、本人からです。偶然森の守り主の巣穴というのか、この場合、太陽の玉があるから、神殿ですね、そこに入り込んでしまって、そして直接話をしたということです」
「本当かそれは!」
 トイラは驚きを隠せない。
「はい。私はこの場合、森の守り駒としてメッセンジャーの役割を頂いたんですよ。そうじゃなければ、誰がこんな話知ってます? 森の守り主は全ての森の守 り駒のことを把握して、そしてそれを時には自らの意思で動かすことができる。なんせ私達は駒なんですから。私はそれに選ばれて、そこへ導かれたんですよ」
 ジークは真剣にそのときの様子をトイラに話せば、トイラは興味深く聞いてすっかり信じ込んでいた。
「トイラ! そいつの話を信じるな」
 突然銀色の毛皮の狼がふたりの前に現れた。
「キース、どうしてだ?」
 トイラが叫んだ。
 キースはすぐさま人の姿になって、ジークに睨みをぶつけて責め出した。
「こいつは嘘を言っている。何か企んでいる。騙されるんじゃない」
「もう、いやですよ、キースは。慎重深くて、いつも石橋を叩いて渡るんですから。でもキースも知ってるでしょ。森の守り主は緑の目を持つ白い大蛇だと言う ことを。私が選ばれた証拠にこれを見て下さい」
 ジークは懐から何かを取り出して見せた。

「これは、蛇のうろこ。しかも白くて大きい。まさか」
 キースの目が見開く。
「私はこれを森の守り主から授かりました。どうです?これで信じて貰えますか?」
 分かりやすいほどにキースが面食らって黙り込み、ジークは誇らしげに胸を張る。
 ふたりのやり取りを見ていたトイラは、これですっかり信じ込んでいた。
「それじゃ、俺が太陽の玉を守る森の守り主になれば、ユキをこっちの世界に呼べるんだ」
 トイラの顔が明るくなる。ジークも調子に乗って囃し立てた。
「それだけじゃないですよ、トイラが望むこと全てが可能になる」
 突然邪悪な笑みでニヤリと笑うジーク。
 その笑みはキースを不快にした。
「望みが全て叶うだけの太陽の玉を持つということは、それなりの森の守り主になる資格がないといけない。一人の望みだけを叶えるものではない。全ての森の調和を取らなくてはならないはずだ。生半可な気持ちでは森の守り主になれる訳がない」
 キースは正論を述べ、訝しげな顔を露骨にジークに向けた。
「それはキースが決めることじゃない、森の守り主とトイラが決めることです。それにトイラは充分にその資格があります。その証拠に緑の目をしています。物知りなキースならわかってるはずでしょ。森の守り主は緑の目をもつものだけが選ばれるということを」
 ジークが反論した。
 キースは言い返せなかった。
 全くその通りだったからだ。
「キース、俺じゃ頼りないと思ってるな。まあ俺も、そんな大それたものに、なれるとは思ってないから、お前の気持ちもわからないではない」
 トイラが自信なく言った。
「何を言ってるんですか、トイラ。あのお嬢さんと永遠に別れてもいいんですか」
 ジークはなんとかその気にさせようとしていた。

「ジーク、どうしてそんなにムキになる」
 キースの鋭い目が光った。
「そ、そりゃ、ムキにもなりますよ。私がメッセンジャーとして選ばれたのに、その役割を果たせなかったら恥じです。私の顔も立てて下さい」
 ジークは必死に訴えていた。
 しかしそれはどうしてもキースにはひっかかるものがあった。
 トイラは今すぐに決断できない。
 それにユキが本当に自分と一緒にいたいか、彼女の意思次第だ。
 無理やりつれてくるわけにもいかない。
「とにかく今すぐにと言うわけじゃないんだろ。だったら少し考えさせてくれ」
 トイラが悩みながら、夜の森へと消えていった。
「おい、待てよ、トイラ」
 キースがその後をついていった。
 ジークは不気味なせせら笑いを浮かべながら、二人の後姿を見ていた。
 トイラが決断を下したのはそんなに遅くない時間が経ってからだった。
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