またリュウゴに会いたい。会えるならなんだってする。自殺行為を逆手にとって私はリュウゴに責任を押し付けているようだ。
「なるほど、不安定とみせかけて僕の気を引く。発想の転換だね。でも僕には分かるよ。君はもう自殺なんて考えないはずだ」
「でも会えなかったらわかりませんよ」
「僕を脅す気かい。もしかして、僕のこと本当で気に入ってくれた?」
 私は正直に大きくかぶりを振る。
「でも、君はまだ高校生だ。もう少し君が大人になったとき、もう一度考えてみるってどうだい? その時僕のことが好きなら、僕は真剣に君との付き合いを考える。僕は惚れてくれた人に一生を添い遂げたいと思ってほしいんだ。今の君ではそれはまだ考えられないだろ」
 これって、遠まわしに私と距離を置こうとしているんだろうか。とりあえず今は保留みたいな感じに曖昧に濁す。
 自分から差し出しながら、近寄れば遠ざかる。からかいなのか、本気にしてしまった私が悪いのか。まるで何かのゲームでもしているようだ。それとも幻? 私はリュウゴをじっと見つめた。
 リュウゴはどこまでも優しい笑みを浮かべている。それは心を奪う魔法をかけられたように魅了され、私はリュウゴに全てを捧げたくなってしまう。やっぱり運命かもしれない。
「私が大人になるまで待てばいいんですか」
「いや、ただ待つだけじゃない。高校生活を楽しんで勉強もしっかりすること。その先大学に入るか、就職するかは自由だけど、自分を磨いてしっかりとした大人になることが条件だ。できるかい?」
 リュウゴの問いかけに、私は力強く頷いていた。
 ミイラ取りがミイラになったような、結局は私の方がやり込められた。目標ができると、それに向かって努力しようとするように、私はリュウゴにまんまと乗せられているだけじゃないだろうか。でも目の前にニンジンをぶら下げられた馬のように私はそれに向かおうとしている。
 カップを手にし、すっかり冷めてしまったカモミールティを私は飲み干す。その時ふと思った。もしかしたら、リュウゴは私のような自殺願望のある人たちを何人も助けているんじゃないだろうか。それはあまりにも奇妙なやりとりだけど、手馴れているように思えてならない。
「もしかして、他にも私のような人を助けたりしたんですか?」
 その質問をしたとき、コーヒーカップを持ち上げようとするリュウゴの手が止まった。そして過去を思い出すように悲しげな目になった。
「助ける? さあどうだろう。自殺を止めたのは君が初めてだけど、君のように僕を気に入ってくれた人がいたのは確かだ」
 リュウゴの女性関係。なんだか聞きたくない。でも怖いもの見たさでその先を訊かずにはいられない。
「彼女がいるんですか?」
「うん、今はね」
 手に持っていたカップを口元に引き寄せ、リュウゴはコーヒーを静かに飲む。
 落ち着いているリュウゴとは反対に私は穏やかではなくなった。
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