「そんな、彼女がいるのに私をくどこうとしたんですか?」
 果たしてそんな言い方が正しかったのだろうか。リュウゴはただ私を元気つけようと話を面白おかしく話していただけじゃないだろうか。それを私が勝手に舞い上がってしまった。
 私は黙り込みうつむいた。分かりやすいほどまだまだ子供だ。悔しくて、悲しくて簡単に落ち込んだ。
「それがもうすぐ別れるんだ」
「えっ?」
 一喜一憂で、私は期待するように顔を上げてしまう。
「彼女は僕と別れて遠くへ行ってしまうんだ。もうこれは決まってることなんだ」
「でも遠距離とかもあるじゃないですか。本当に別れるつもりなんですか?」
「あれ? 君は僕を応援しているの?」
 別れるなといっているわけではなかった。ただそういう選択もあるかなというくらいだった。好き同士なら離れたくらいで終わらないと思っただけだ。私は確かめたかった、リュウゴの本気度を。
「好きなら追いかけることもできるし……」
 語尾がごにょごにょとしてしまう。本当はそんな事思ってない。
「僕はそれができない。ただ見送るだけだ。彼女もそれを受け入れているし、それに僕に新しい人を見つけてと言っているくらいなんだ。僕たちは本当に終わりなんだ」
 リュウゴは持っていきようのない気持ちを抑えるかのように寂しそうに視線を下に向けた。何かの事情があるのだろう。彼女は仕事を優先したとか、親が反対 しているとか、リュウゴとどうしても一緒にいられないふたりの間だけの事情。でも私はそれ以上訊かなかった。理由よりも、別れる事実だけが重要で、それ以 上は必要ないと思った。ふたりの 事情はとにかく私には好都合だ。
「それで寂しいんですね」
納得したあとは落ち着いて言えた。
「そう。そして僕は今君に出会ってしまった。僕もまた少し気持ちが不安定だったというわけ」
 理由を知ってしまうと、この奇妙なやり取りが意味を成した。リュウゴは心の拠り所を探していたときに、私の命を助けた。リュウゴも自分の寂しさをなんらかの形で埋めたかった。そして次の恋のために本気になるには私はまだ子供過ぎた。
「私が大人になるまで、その、リュウゴさんが言うしっかりとした大人になるっていう意味です。その時が来たら、私のこと彼女にしてくれませんか」
「そうだね、麻弥ちゃんが僕に一生を捧げてくれるのなら考えてもいいよ。それぐらいの覚悟じゃないと僕はいやだからね」
 冗談なのか、本気なのか。それって結婚するという意味だ。大げさだけど、私の気持ちを確かめるために言ったようにも思える。
「それまでは時々私と会ってくれますか? 私も一生を捧げられるか判断したいですし」
 そんなこと言わなくてもすでに私の心は決まっている。ただ口実をつけて会いたいだけだった。
「そうだね。時々会うのもいいね。でも僕は強制しないからね。決断を下すまでの間、もし麻弥ちゃんが僕に飽きたり、他に好きな人ができたりしたら、いつでも離れていいんだよ」
「だけどその間リュウゴさんに他の彼女ができたら……」
 そういう可能性だってあるかもしれない。これだけ素敵な人なんだから、私が大人になるまでに他の人を好きになっているかもしれない。
「それは大丈夫。僕も麻弥ちゃんの事が気になってるから、麻耶ちゃんが大人になるまで絶対待つ。どんな大人になっているのか楽しみだし、見てみたいと素直に思う」
「本当に待てますか」
 今度は逆に私が確かめる。
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