「たかが数年だろ。ほんの一瞬さ」
 鼻で笑ったような言い方だった。実際それくらいの年月は彼の言う通りなのかもしれない。だったら、私はリュウゴに気に入ってもらえるように頑張らねばならない。
 突然芽生えた恋はいとも簡単に私を変えた。
 私はリュウゴとの約束のお陰で活気付く。不思議なものだ。今朝までは落ち込んで死にたいとまで思っていたのに。
命を救ってくれた私の王子様。そして私は約束されたシンデレラ。学校では一人ぼっちで友達がいなくても、意地悪をされようとも、私は耐えていけそう。未来で王子様が待っていてくれているのだから。
「そろそろ、出ようか」
 リュウゴの言葉でハッとして、私はテーブルの上にあった伝票を取ろうとした。同じタイミングでリュウゴも手を伸ばしたから、私たちの手は重なった。
 ドキッとして私の方が素早く手を引っ込めた隙に、リュウゴは伝票を手にした。
「あの、私が払います。助けてもらったし、その……」
 私が慌てて言えば、リュウゴは首を横に振る。
「いいよ。気にしないで」
「でも」
「麻耶ちゃんがちゃんと働いて自分でお金を稼いだら、そのときにちゃんと払ってもらうから」
 よくある決まり文句みたいだ。これなら素直に受け入れられる。
「はい、わかりました。そしたらご馳走になります。ありがとうございます」
 リュウゴはゆっくりと席を立ち、カウンターの端にある会計へと向かった。私はその後を静かについていく。
 リュウゴの後姿も肩幅がしっかりしていてかっこいい。背も高く足も長い。この人が将来私を待っているなんて考えただけで、悶えてしまう。
 落ち込んで思いつめていた自分が嘘のように、生きる希望を得て未来がバラ色に見えてくる。これが死のうと思っていた自分とは思えないくらい、私は助けられた命に感謝している。
 人生何があるかわからない。ただ、死ななくてよかったと思えてならなかった。
でもあまりにもできすぎていて、ふと疑問に思う。もしかしたら夢の中に紛れ込んでいるだけなのかもしれない。喫茶店のドアを開けるのが少し怖くなる。この外は現実が待っていて、本当は、自分はホームに飛び込んでいて外に出たとたんに全てが消えていくのではないだろうか。
 電車に轢かれてすでにぐちゃぐちゃになっている私――。
 それを想像すると急に怖くなって足が震えた。
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