11

 女はかろうじて息をしていたが、それも次第に弱くなっていく。
 命の炎が燃え尽きようとしているとき、女は男を求めるように震える手を差し伸べた。
 男はしっかりとそれを掴んでやった。
 女は最後の力を振り絞って男の名前を呼んだ。
「レオナルド……」
 そして満足して息を引き取っていった。
 安らかな表情だった。
「サーヤ!」
 男はむせび泣き、魂が抜けた女の体をいつまでも抱きしめていた。
 自分もまたすぐに後を追おうと、銃を手に取り、頭に向ける。
 だがその時、強い風が吹き、ダンドリオンの綿毛が当たり一面に舞った。
 その綿毛は次の花を咲かそうと旅立ったところだった。
 ふわふわと飛び立つ綿毛は幻想的だった。
 現実と夢の間を揺らぎながら全てを風任せに自分の運命を委ねているようでいて、しっかりと小さな種を運ぼうとしている。
 男はそこではっとした。
『私には見えるんです。あなたと私が笑顔で語り合ってる姿が』
『できるだけ沢山の花を咲かせて欲しい。そしてまた新たな種を作ってさらに遠くに飛ばして欲しい。ずっとずっと永遠に。私はそれをきっと未来で見ることができる』
 女の声が再び蘇る。
 そして、男の手から銃が零れ落ちた。
 未来に向かっているダンドリオンの綿毛を見ているうちに、女が救ってくれた命を無駄にしたくなかった。
 自分がやるべきことを考える。
 死ぬのはそれからでもいい。
 男は女を抱え、綿毛に包まれて森の中へと消えていった。
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