学校の帰り道、レオは自分と同じ制服を着た男女が仲睦まじく歩いている姿を見てしまう。
 周りの目を憚ることなく堂々と手を繋ぎ、ラブラブ感を出していた。
 正直羨ましいし、そういうカップルに限って制服を着崩したヤンチャさが見受けられた。
 チャラチャラしてるから、やることも大胆と言いたくはないが、それだけ自己主張できて、相手に対しても積極的になれる素質を持っているのは見習いたい。
 レオは女の子に慣れてないし、話す事ですら勇気のいるタイプだった。
 早く腹を括って沙耶に告白したいのに、肝心なところで一歩進むことができない。
 もし振られたらどうしよう。
 そんな結果を恐れていては、いつまでたってもこの先に進めないはずだった。
 振られたら振られたとき考えればいい。
 怖がっていては何もできない。
 何度も決心をすれど、いざ隣の席の沙耶を見ると振られるのが怖いと感じてしまうのだった。
 ため息が一つこぼれ、そこにあった小石をつい蹴ってしまう。
 背中は丸くなり、自信なさげに歩く姿は自分でも惨めだった。
 駅に近づくにつれ、飲食店やお店が辺りに増えていく。
 ちょうど店から出てきた女子高生達と路上でばったりと出会い、そこに沙耶がいたことで「あっ」とレオの声が小さくもれた。
 沙耶もレオに気がついて目を合わせると、どういう反応をしていいのか戸惑っている。
 周りには数人の友達がいるし、冷やかされるのも目に見え、なんとも気まずい空気が流れてしまった。
 しかし、無視して通りすぎる方がおかしいので、レオはさりげなさを装って「よっ」と声を発した。
 沙耶も愛想笑い程度に微笑を返して、後は周りの反応を気にしていた。
 そこで、お節介の沙耶の友達がわざとらしく気を利かせようとした。
「あっ、そうだ、私ちょっと買い忘れたものがあったんだった。あんた達、もう一回ついてきてくれない」
 肘で他の友達をつつき、空気読めと催促し、また店に入りなおすと、沙耶以外ついていった。
 沙耶は立ち止まっているレオを放っておくことができず、オロオロとしながら、友達の後姿を見ていた。
 そしてレオに視線を移すと苦笑いするしかなかった。
 レオも折角作ってくれたチャンスをみすみす無駄にはしたくない。
 何も知らないふりをして、さりげなく沙耶に声を掛けた。
「買い物か?」
「えっ、まあ、そんなところ」
「何か買ったのか?」
「これと言って別に。ただ雑貨を眺めてただけ」
「そっか。あまり道草くってんじゃないぞ」
 こんな決まりきった良くある会話でも、レオにとったらドキドキものだった。
「館山君も道草してたんじゃないの」
「いや、俺は掃除当番だっただけさ」
「それはそれはご苦労さまです」
 綱渡りをしているようなハラハラとした気分がそこにあった。
 この先の会話をどう続けていけばいいのか分からないし、さっさと帰るのも惜しい気がして、不自然にならないように会話が少しでも長く続くようにと、この状況にしがみついていた。
 周りは行き交う人が多く、道路では車もせわしく通っている。
 沙耶の友達は店に引っ込んだまま出てくる様子はなかった。
 きっとみつからないように、どこかでこっそりと自分達の事を見ているのは分かっていた。
 冷やかしの種をそのまま提供するのも癪だったし、レオは少し勇気を出した。
「少しいいか?」
「うん、いいけど、何?」
「ここではちょっと話し難い。駅の広場まで移動しよう。どうせ電車に乗るんだろ。だったらあいつらもそこに来るだろうし」
 レオは沙耶の返事を確認せずにすぐ歩き出した。
 沙耶は店の中にいる友達を気にしながらも、遅れてレオについていった。
inserted by FC2 system