第二章


 大好きなユキ

 こんな形で再び俺が君の前に登場するなんて思わなかった。
 一体何から話せばいいのか俺自身混乱している。
 まずはこんなことになってしまったところから話そう。

 ユキの命を救ったあの後、俺の意識は消えずに君の中に留まってしまった。
 これも君が人間であり、俺が森の守り主として選ばれた存在だったからなのかもしれない。
 誰もが予測できなかった事態が、偶然に起こってしまったのだろう。
 だが俺はそのことを君に伝えることはできなかった。
 君はあの後悲しみ、途方に暮れていた。
 そんなときに、俺が君の中で生きているなんて知ったら、君は世界を見ようともせず、ずっと引きこもってしまうと思ったんだ。
 だからいつかは立ち直ってくれると信じて、俺はひっそりと君の中で隠れていた。
 そして、少しだけ君が前を向き出したのが感じられた。
 でもそれはまだ弱すぎたために、俺はその時だけ自分の意識を少し表に出してみた。
 俺の意識のイメージを君に植え付けたんだ。
 側に俺を感じることで、君はそれを見えると思った。
 そうすることで、君は益々前向きになり、俺も明るくなっていく君を見るのが嬉しかった。
 だけど、いつしか君は俺に会うためだけに無理に前に進もうとしていた。
 それでは最初に俺が恐れていたことと変わらなくなってくる。
 表向きは前を歩いているようでも、結局は自分の中だけで生きているのと同じことに思えたからだ。
 だから徐々に俺はまた隠れたんだ。
 そしてこのまま眠りにつこうと思っていた。
 
 だけど、その眠りをあの葉っぱが邪魔をした。
 君があれに触れることによって、弱まっていた俺の力が目覚め、更にパワーアップしてしまった。
 それと同時に君も俺への愛情を確認させられることとなってしまった。
 力と共にその時、俺宛のメッセージも一緒に送り込まれた。
 一体それは誰が企んだことなのか。
 誰とまでははっきりとわからなかったが、俺と同じような奴に違いない。
 
 ユキ、黙って勝手に君の中に隠れていたことをどうか許して欲しい。
 そうする事が、ユキにも俺にも一番いい方法だと思ったんだ。
 でもそれももうできそうもない。
 ユキに黙って自分で処理をしようと、仁の力を借りたかったのに、仁はあっさりと俺を裏切ってくれたよ。
 あんなに簡単にばらされるなんて思いもしなかったくらいだ。
 くそ、仁のヤツ。
 今度アイツが目の前に現れたら殴ってるけど、言っとくけど、それは決してユキの意志ではないからな。
 
 仁に一体何を頼んだんだろうと、今不思議に思ってるだろうけど、実は君に内緒で君の体から出て行こうとしたんだ。
 その方法が一つ見つかった。
 その手伝いを仁にさせようとしていたんだ。
 もちろんそれは君の命には問題はなく、俺の意識だけが出て行く事ができるんだ。
 そうすれば、君は俺から解放されるしね。

 ここまで読むと、ユキは首を横に強く振っていた。
「嫌よ、あなたが出て行くなんて。私はトイラとずっとこのままでいたい」

 これを読んだ君が考えていることとてもよくわかるよ。
 君がこのことを知れば絶対俺の意見に賛成するわけがない。
 でもユキ、聞いてくれ。
 君が解放されるだけじゃなく、俺も君から解放されるということを忘れないでくれ。
 俺がどんな気持ちで君の中で隠れていたか、そしてこの先君に知られてどんな風に君の中で過ごしていけばいいのか、俺の気持ちも考えて欲しいんだ。
 
 「お互いこのままじゃだめなの? 私はずっとこの先もトイラのことを考えて生きていきたい。トイラが私の中にいるのならずっとこれから一緒にいられるってことじゃない。トイラが出て行くなんていやよ」

 ユキ、いい子だ。
 俺の願いを聞いて欲しい。
 
 ありったけの愛を込めて
 トイラ
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