第二章


 ユキが目覚めたとき、病室のベッドに横たわり、手に針が刺さってチューブと繋がっていることを不思議がっていた。
 側には仁がスツールに座って見守っている。
「ユキ?」
「あっ、仁…… なんで私、ここで寝ているの?」
「トイラからユキが倒れてるって教えてくれた。だから僕がここへ運んできたんだ」
「トイラと話をしたの!?」
 急に興奮してユキは身を起こした。
「だめだよ、安静にしてなくっちゃ。体がかなり弱ってるんだから。なんでそんなにいつも無茶するんだよ」
「だって」
 仁はユキをまたベッドに寝かし、口を尖らせて愚痴をこぼし始めた。
「だってもくそもないだろ。心配する僕の気持ちも考えてよ。ユキが暴走すれば、僕だって同じ道を辿るしかないんだから。それから、放っておいてなんて言葉、僕には言うなよ。無駄だから」
 先手を打たれてユキは大人しくなった。
「……ごめん。それで、トイラと何を話したの?」
「色々なことさ。これからどうすればいいのかってことも」
 誤魔化してもユキには通用しないと思ったので、仁はトイラから聞いたことを全て話した。
「そう、いずれ私はトイラと入れ替わっちゃうのか」
「今、それでもいいって思っただろ」
 仁が指摘するとユキは黙り込んだ。
「今すべき一番の事柄は、ユキが体調を整えて元気になるってこと。それとこんなこと二度とするな。トイラと話したければ、僕が手伝ってやる」
 仁がとてもしっかりして急に大人びた表情に見えた。
「わかった」
 ユキはしぶしぶ承諾する。
「それで、カジビという人物を探さないといけないんだけど、なんか聞いたことない?」
 ユキは首を横に振ったが、突然目を大きくして閃いた。
「もしかしたらあの巫女さんに聞けば何かわかるかも。あの人何か不思議な力もってそうよ。私の中にトイラがいるってことも見えたし」
「そっか、あの巫女さんか。よし、後で僕がまたあの神社に行って探してくる」
「私も行く。どうせこの点滴が終われば家に帰れるんでしょ」
「ああ、そうだけど、ユキは少し休んだ方がいい。この暑さじゃ、また倒れてしまいそうだ」
 散々、仁に迷惑を掛けているので、ここは従うしかユキには選択がなかった。
「それじゃその人、見つけたら家に連れてきて。彼女とじっくりと話がしたいの」
 仁は口元を上げ、頷いて約束する。
 自然と笑みがこぼれたのもユキが比較的落ち着いていることに安心し、自分と距離を取ろうと思わなくなったことに少しほっとしたからだった。
 あのとき頑なに自分を拒否してきたのも、少なくともあの葉っぱの力に左右されたことだと気がつく。
 トイラを思う気持ちが力を増した支配力であり、それに知らずと従っていたのだろう。
 ユキが全てを知ることで、自分の意識を支配されないように少し抵抗力ができたのかもしれない。
 それとも、他に何か気がついた事があるのだろうか。
 ユキは眩しそうに窓の外に目をやり、木の枝に止まる鳥を眺めていた。

 ユキはタクシーに乗って先に帰っていく。
 仁は口を酸っぱくするほど何か食べて安静にしておけと言い聞かせたので、ユキは大人しく家で待つと約束した。
 その間、仁は自転車であの神社へと向かう。
 神社に着いたときは汗だくになっており、手水舎につかさず駆け寄り、柄杓を手にした時は、水をすくって思いっきり頭から被っていた。
「ちょっとあんた、それ使い方間違ってる。そこはお参りするときに手を清めるところ。頭清めてどうすんのよ」
「ああっ!」
 あっさりとキイトを見つける事ができて、仁は叫ばすにはいられなかった。
「ちょっと、突然大きな声を出さないでよ。ここは神聖な場所なんだから」
「あの、ここの神社の巫女さんなんですか?」
「だったらどうなのよ」
 キイトは妖しい目つきを仁に向けた。
「いえ、その、ここですぐに会えたからそのびっくりして」
「もしかして、あんた私を探してたの?」
「はい。ちょっと聞きたい事があって」
 仁はこわごわとキイトを見つめる。
「聞きたい事って何よ」
「ここではなんだから、ちょっと来てもらえますか」
「そこには、あの女もいるのね」
 仁の頷きに、キイトは迷うことなく後をついていく。
 そして再び話が始まったとき、ユキと仁に囲まれ涼しい部屋でお菓子とお茶を目の前にソファーで座っていた。
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