エッセイ

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  第12話 父としての思い 

 父親とはいい関係とは言いがたい。
 あまり父親の話はしたくない程、あの人には難儀するところが一杯あった。
 年取って丸くなったらしく、あの母ですら、若い頃は嫌いだの離婚だのさんざん悪口言っておいて、今ではいい夫と結婚してよかったとのろけている。
 思わず「ふーん」となる。
 そこで必ず、過去の私が見てきた夫婦喧嘩を知ってる限り話してやると母は大笑いする。
 ほんとに母は父親のせいで一杯苦労させられたのに、一時は私を連れて逃げたこともあるらしい。
 これについては赤ちゃんだったので覚えてないが、母方の兄弟を交えて一揉めあったと後に叔父から聞かされた。
 それでも今は仲睦まじく楽しく暮らしてるらしい。

 私も結婚して子供が居る身。親になった立場から父のことを見ると過去のことは腹立たしくも、結局は父親の血を一杯引いてしまったと思う。
 過去のことは忘れたわけではない。父親に対しては絶対素直になれないところは今でもある。甘えることなんて絶対しない。寧ろ突き放す。
 父親にしても、孫ができて自分の人生振り返ることがあるのだろう。確かに父親は昔と違って変わった。

 私はアメリカ人と結婚したために、日本を離れてしまった。
 滅多に実家には帰れない。孫が生まれたときも、病室から電話を掛けて、写真をエクスプレスで送ることしかできなかった。
 待ち望んでいた初孫なのでそれはそれは喜んでいた。
 写真は2日でついて、何度もみたらしい。生まれたときの息子の顔はなんと私の父親そっくりで、もろ日本人顔だった。
 後にあっという間に変わってしまって、生まれたての時の面影はなく別人になってしまったが──。
 
 父親はあまり私とは電話で話さない。ここへ来て十数年になるけど、父親との電話の回数は数回。
 自分から滅多に掛けることもしない父親だが、ある日一度孫の様子を知りたくて掛けてきたことがあった。
 素直になれない私は、いつも電話口ではつっけんどん。
 それでも父親は私を気遣い、元気かと照れて、へへへと電話口で笑う。孫の様子を知りたくて何か話そうとするが、慣れてないものだからたどたどしい。
 そこで息子が、日本食が好きでわかめの入った味噌汁も好んで食べると話してやると、納得するように、感心した声をだした。
「ほー、そうかそうか」
 とても嬉しそうにしている。そしてさらに言った。
「やっぱり日本人の血を吸うてるな〜」
──はっ?
 一瞬沈黙したが、意味を考えたら可笑しくなって、噴出した。
「それを言うなら、引いてるやろうが!息子は吸血鬼か!」
 言い直してやっても、慌てることなく、そうやなと相槌をする。
 父親とのわだかまりが、ふと消えた瞬間だった。
 親子もまた色々ある。自分が親になってわかること、そして不器用だった父親の気持ち、悔しいけどなんとなく判る。
 いつかいつか素直にならなくっちゃと、そういう思いが常に強くなっていく。
 それは次、帰国したときにでも……
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