エッセイ

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  第4話 猫の名は?  

 動物病院からお知らせハガキが届く。
『そろそろ猫の健康診断の時期です。予約を取りましょう』
 当時猫が5匹いたので、このハガキも猫の数だけ届いた。
 この日は黒猫のハマチの番だった。猫なのに、名前はハマチ。寿司を知ってる通なアメリカンなら、魚の名前から取ったなとわかるのだが、知ってたところ で、猫に魚の名前は変わったネーミングだと思うに違いない。
 魚のハマチは英語だとイエローテイル(黄色い尾っぽ)となるのだが、黒猫の黒の尻尾だし、意味がわかればミスマッチな印象を与えるかもしれない。
 なんで猫に魚の名前をつけてしまったのか。
 当時猫の救助や飼い主を探すボランティア活動をしていた。いつかはどこかに貰われると思うと愛着のある名前をつけるのは避けたことから始まる。貰われれ ば名前は飼い主によって変わってしまう。
 この時五匹の子猫と母親一匹を捕獲し、全部適当に名をつけて、そしてなんとか全部貰われたはずだった。
 ところがこのハマチ、貰ってくれた人の家族に猫アレルギーがいて、仕方なく飼えないということで戻ってきてしまった。もう一匹、ロデムとつけた猫と一緒 にペアで貰ってくれたので、そいつも一緒に戻ってきた。
 黒猫ときたら、やっぱり「ロデム変身、地をかけろ〜♪」(バビル二世)で、そこからとったのだが、なんともどちらも安易に付けすぎてまさか自分が飼うと は思わなかった。

 予約当日、動物病院に連れて行くと、いつものアシスタントがいなかった。
 新しいアシスタントは、まだ見習いで慣れてなさそうで、籠にいれられて固まってるハマチを必死に取り出して体重を調べようと量りにのせながら質問した。
「猫の名前は?」
「ハマチ」と答える。
 ちょうど猫が暴れて正確な数値がでなかったのか、アシスタントは格闘しながらなんとか数値を出して
「10ポンド(約4.5kg)」と呟いた。
 私の声を聞きそびれたのかまた同じ質問をしてきた。
「猫の名前は?」
「ハマチ」
 その時、ハマチは暴れながらアシスタントに抱えられ、診察台に置かれるとまた再び
「10ポンド」とアシスタントは体重を言った。
 よほど量り難かったようだ。
 そしてまた、聞きそびれたのか
「猫の名は?」
 また同じ質問をされた。
 やはり日本語の名前をつけたら、アメリカンには聞き取り難いんだろうなとゆっくりと「ハ・マ・チ」といってみた。
 今度はそのアシスタント変な顔をした。少し沈黙があり私の顔をみて
「10ポンド」と言った。
 さらにまた
「猫の名は?」
と、きたもんだから、私もこれは紙に字を書かないとわからない発音のレベルなのかと思った。
 もう一度辛抱強く
「ハマチ」
というと、相手も真剣な面持ちで
「10ポンド」
と、返って来た。
 あれ?そこではっとした。
 あっ、もしや…… そのアシスタントはハマチを「ハウマッチ」と聞き間違えていて、私がずっと体重のことを聞いてると思っているのでは? 
 そこできっちりと答えた。
「この猫の名前がハマチなんです。体重は10ポンドですね。わかりました」
 相手も笑いながらやっと納得。
 ハマチとハウマッチ。
 知らずにコントをしてた私達だった。
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