第三章


 ジェスはいつも夜遅くまで、一階のピッチフォークの秘密の部屋に篭っては、コンピューターを操っている。
 情報を集め、バッフルの怪しい動きがないか、目を光らせてニュースの隅々をチェックしていた。
 いつ寝ているのか、それは私ですらわからない。
 ジェスに関しては、あまり私生活を詳しく設定せずに、神秘的な要素を持たせている。
 リーダーなので、その辺はそれなりの行動をしているに違いないというだけで説明は充分だった。
 つまり、適当。
 あくまでも私の妄想話の重要な部分は、キュウジとリセのラブラブなところだから、大まかに重要な部分だけあれば細かいことはいいという構え。
 ジェスは器用で、何をやらしても完璧にこなすから、その脳内でいくらでも補正ができる。
 賢いキャラクターは謎めいた部分を持ってこそ、魅力的になるから変に指定しまえば、魅力が損なわれる。
 リーダーは常にかっこよく。
 イメージが極端に固まりすぎると動かしにくいのもあるが、そこがまた好きだからこそあまり詳しく知りたくないというキャラクターでもある。
 キュウジとスカイラーはまた違った魅力を持ち、年も近いし、気も合うのでよく一緒に過ごしては、常にお馬鹿なことをしでかすのがデフォ。
 この二人が面倒を起こすから、話にメリハリがでてくるのだが、二人一緒にいつでも仲良く行動するのが当たり前というところがあった。
 その中でもスカイラーが一番トラブルを持ち込みやすく、それにキュウジとジェスが振り回されやすいが、同じ屋根の下で暮らすことだけあって、この三人の仲は良好だった。
 お互いを尊重し、いい関係を保つ心がけが常にされている。
 だから、多少の事は目を瞑り、それぞれにあまり干渉しないのが基本だから、スカイラーが酒をがぶ飲みしたところで、咎める者は誰も居なかった。
 だけども飲んでしまった後で、多少はちょっと突っ込んで欲しかったと、スカイラーの中にいる私はちょっと思ってしまった。
 私はこのときかなり酔っ払ってしまい、非常に気が大きくなっていた。
 顔や体が熱く、どくどくと血が騒ぎまくって体の中からロックミュージックを奏でるように激しく体中を駆け巡っていた。
 なにこの、ふらふら感。
 全く気持ちいい酔い方ではなく、ただ泥酔しきっていた。
 自分でもどこを見てるかわからないまま、全てがダブってみえたり、視界もおかしくなっている。
 やけくそだったとはいえ、たったあれだけのワインでここまで酔うとも思わなかった。
 よたよたとしていると、キュウジが放って置けなくなって私を突然肩に担ぐように抱きかかえた。
「あら、いやん」
 それはそれで嬉しく、暫しキュウジに抱きかかえられて運ばれていくのを楽しんでいた。
 その後ベッドの上に落とされた。
「ほら、もう寝ろ」
 そのベッドは壁に収納できるもので、ひょいと引っ張ればそこはすぐにベッドに変身する。
 前日もここにリセと寝たが、もしかして、キュウジと一緒にここで寝るの?
 なんだかふわふわとした気持ちの中、キュウジとベッドを共にする喜びに悶えていた。
「キュウジ」
「なんだよ」
「キュウジ」
「だからなんだよ」
「キュウ…… ジ……」
 名前を呼んで応えてもらうだけで幸せを感じ、そして私はそのまま寝てしまったようだった。
 それからのことは起きるまで何も覚えてない。
 でも夢だけはしっかりとみて、楽しんでいた。
 夢の中では、キュウジと楽しく手を繋いで野原を駆け回っている。
 もちろんそれは成瀬ハナの本来の姿であった。
 チョウチョを追いかけ、笑い声が絶えず、ひたすらラブラブで辺りもハートが一杯飛び交っているような幸せがそこにあった。
 私が、チョウチョを追いかけて、ちょっと躓いてこけてしまうと、キュウジが血相を変えて走りよってくる。
 大丈夫かと、体を起こしてくれて、そしてそのまま見つめ合う。
 もうそれだけで幸せだけども、私はそれ以上の事をキュウジに望んでしまう。
 でも恥ずかしくて口には出せず、ただ真剣に見つめては、頬をピンクに染めていた。
 キュウジも私から目を逸らすことなく、愛しく思っている優しい目でみていた。
 次第に距離が近づき、そしてという肝心なときに私は目が覚めてしまった。
 でも、目の前にほんとにキュウジが目を瞑ってそこにいたから、まだ夢の続きだと思い込んで、気を取り直して私はキュウジに唇を近づけていく。
 その時「うわっ」と声が聞こえたかと思ったら、バシッと顔を抑えられてしまった。
「痛い、何すんのよ」
「そっちこそ、何やってるんだ。なんか生暖かい風が送り込まれて、酒臭いと思ったら、スカイラーの顔が目の前にあったからびっくりしたんだよ。寝ぼけるのもいい加減にしてくれないか」
 薄暗かったが、部屋の中の様子を見渡せるくらいのぼんやりとした光はどこかから漏れていた。
 隣に寝ていたキュウジは上半身裸で、私ははっとした。
「とにかくその荒い鼻息を近づけるなよ。向こう向いて寝ろよ」
 キュウジは私に背を向け再び横になった。
 私はキュウジの背中を見つめ、こんなにも近くで寝ているキュウジに胸キュンしてしまう。
 もう少しだけ近づきたいと思っているうちに少しずつ寄ってしまった。
 キュウジは一度「コホン」とのどを鳴らし、けん制をかけるが、そんなこと気にしてられない。
 例え自分がスカイラーであっても、とにかく側で寄り添って寝られるだけでも私には幸せだった。
 暫くキュウジの背中を見て、触れようか触れまいか迷っているうちにまた再び寝てしまった。

 朝、目が覚めたときは、頭がずきんずきんとする。
 キュウジはすでに起きていて、シャワーを浴びているようだった。
 奥のバスルームから水が流れている音が聞こえてくる。
 覗いてやろうかとかも思うが、どうしても頭が重く、機敏に動けそうもない。
 これが二日酔いというものだろうか。
 ワインボトル半分程度で酔ってしまうスカイラーに、しっかりせいよといいたくなる。
 本人だったら、飲めないってわかってるのであんなに無理してまで飲まないだろうが、スカイラーも粗末に扱われてかわいそうなものである。
 早くこの体から出て行きたい。
 スカイラーではリセとキュウジをくっつけるどころか、リセに近づくことすら難しい。
 素っ裸でリセに襲い掛かったり、キュウジにも襲い掛かったりと、失態ばかり見せている。
 頭を抱えながら、ベッドから起き上がり、水を飲みにキッチンに向かった。
 その時、一階からジェスの呼び声が聞こえてくる。
 キュウジを呼んでいるらしいが、キュウジは今シャワー中なので、仕方がないと私が階段下を覗き込んだ。
 ジェスが下から見上げていた。
「キュウジなら今シャワーを浴びてるけど」
 声を出すのも頭が痛くてたまらない。
「じゃあ、スカイラーでいい。少し下りてきて手伝ってくれ」
 こんな二日酔いの私に何ができるのだろうか。
 ただズキズキと頭が痛くて辛い。
 それでも無理して一階に降りようとしたのが間違いの元だった。
 このとき足を滑らして、階段から転げ落ち、下にいたジェスにかぶさるように落ちてしまった。
「痛い〜」
 再び、目を開いたとき、私の上にはスカイラーが覆いかぶさっていた。
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