遠星のささやき

第一章 出会ってしまったあの日

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「あの男の 子、なかなかいい」
「あの先輩、素敵」
「やっぱり、この人がいいかも」
「あの人もかっこいいよ」

 話題はいつも男の子のことばかり。

 これは、私、滋賀理沙子と、親友、鶴佳奈美が中学一年の時に音楽の授業で偶然近くの席になってからノリで始めた交換日記の内容。
 必ず男の子の名前が出てくる。
 携帯電話もインターネットもまだない時代。
 交換日記が唯一の友達との絆を深めてくれる道具だった。
 決して人には見られてはいけない秘密のノート。
 そのノートの秘密を知られたら恥ずかしくて生きていけなくなる。
 だから秘めたる露出というのか、誰かに奪われたらどうしようなどと、人前でそのノートを晒すときがもっともスリリングなときだったりする。
 そんなことを続けてもう三年。
 私達ももうすぐ高校一年になろうというときもまだ、飽きもせずとっかえひっかえ気になる人のことばかり綴っていた。
 ラッキーなことに佳奈美とは地元の同じ高校に行くことになってる。
 この先もきっと同じことが続くとこのときはそう信じていた。

 ノートの数も増えると、男の子の名前も蓄積されていく。
 後で読み返しては、あんなのが良かったんだと笑いのネタになる始末。
 この先もどんな男の子の話題がでてくるのやら。
 新しい出会いに期待。
 私と佳奈美の好みは違うので同じ人を好きになったことなど一度もない。
 親友なのに中学校では所属する友達のグループも趣味も全く違った。
 私はきつい感じのクラスでも目立つ女子と一緒にいることが多いけど、佳奈美はアニメ好きのオタク趣味な友達が多い。
 でも私は気にしない。
 佳奈美は何でも 話せて全く気の置けないところが大好きで、学校では一緒にいなくても心は通じてるって感じの友達だから。
 高校生になってもお互いのスタンスは変わらないと思う。
 佳奈美と一緒に好きな男の子の話を恥ずかしくもなく楽しくできるのは、お互いの趣味が全く違って絶対同じ男の子を好きにならなかったから。
 そして何よりお互い信頼していた。

 いつの頃からか、佳奈美の好きな男の子の名前が変わってきた。
 実在しないアニメのキャラクターになっている。
 これにはどう対処していいかわからないけど、ま あいっか──。
 恋に恋して、妄想すると言う点では実在しててもしてなくとも基本は一緒。
 交換日記の話題は絶えない。
 こんなに沢山の恋のことを書いているというのに、まだ私達は本当の意味での恋のことなど知らない。
 だって二人ともまだ男の子と一度も付き合ったことなどなかったから。

 この時は無邪気なものだった──

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