遠星のささやき

第一章

3 

「なんか、りさちゃん、三岡に気に入られたみたい。珍しいんだぜ、三岡がこんなことするの。軽そうなことしてるけどあいつ俺たちの中で一番まじめなんだ」

 説明してくれたのはうっちゃんと呼ばれる内元恭一郎だった。
 三人の中で一番のハンサム。
 まじかで見るとビックリするほど顔の作りが整っているのがよくわ かる。
 男の人で美しいなんて形容詞使ったことがなかったけど、まさに美人な男性。

 一番端っこでトモと呼ばれる佐山智則が時々こちらの様子を見ている。
 三人の中では一番普通。
 だけどあまり好きじゃない演歌歌手に似た雰囲気があった。
 使 いっぱしりをさせられそうな気弱なタイプにみえた。

 うっちゃんがトモにパイナップルの切り方が均等じゃないと怒っている。
 トモはヘコヘコして萎縮していた。
 全く言い返せない。
 ハンサムなうっちゃんの近くで情けない顔をして謝っている姿は余計に惨めな雰囲気が伝わってくる。
 私もかっこ悪いとつい思ってしまった。
「おい、うっちゃん、トモをそういじめるなって。許してやれよ。とにかく売れればいいんだって」

 三岡君が三人の中でリーダー的存在なんだって私にもわかった。
 落ち着いて対応が大人。
 うっちゃんには負けるけど、三岡君はスポーツ選手のような男っぽさ がかっこよくみえた。
 私はこの中で三岡君が一番気に入った。
 まだ会って5分も経ってないのに。

 パイナップルを半分食べたところで聞いてみた。
「あの、私、何を手伝えばいいんでしょうか?」
「あ、リサ、ほらこれで口拭けよ」
 三岡君がナプキンを手渡してくれた。そして自分の口に指を置いて何かがついてると知らせている。
 やだ、もしかしてチョコレートがついてるの? 
 私は急に 恥ずかしくなって慌てて口を拭いた。
 拭ったナプキンにチョコがついているのを見ると、どんな顔して喋ってたんだろうと、顔から火が出そうだった。

「ははははは、気にするな。とにかく食べ終わったら、一緒に売るの手伝ってくれ。女の子が売り子の方が買いやすいってなものだろ」
「でもなんで私に声をかけたんですか」
「一人で歩いてたし、暇そうだったから。でも一番は俺好みだったから」
 さらりと言われて、胸を尖ったもので軽く付かれたようにぴくっと驚いた。
 でもとても嬉しかった。
 だけどその気持ちを悟られるのが恥ずかしくて、わざと戸惑った顔をしてしまった。

 私はパイナップルを食べ終わると、商品が並んでいる前に立った。
 最初はちょっと恥ずかしかったけど、三岡君が隣で活気付いたように 「いらっしゃい、いらっしゃい」と連呼する。
 ときどき私の顔をみてリラックスしろと白い歯を見せてにっこり笑っていた。
 その笑顔を見ると体から勇気が出てきて、私も思い切って真似してみた。
「いらっしゃい、いらっしゃい。チョコバナナいかがですか。チョコパイナップルもいかがですか」

 アルバイトもまだ経験がない。
 だけど三岡君の隣で働けるのはワクワクした。
 働くことも悪くないって思える程。
 そして商品が売れるたびに歓喜に満ちる。
 なんて面白いんだろう。
「リサ、なかなか筋がいいな。初めて会ったのに前から友達だった気分になるぜ。やっぱり俺の見る目は間違ってなかった」
 三岡君はとてもハキハキとしている。
 同世代の男の子たちと違って、しっかりとして頼もしい。
「三岡君って何歳?」
 思い切って聞いてみた。
「俺たち全員18歳、中学からの知り合いでさ、この間高校卒業したとこ。これから働くことになってるんだ。君はまだ中学三年ってところかな?」
「これから高校一年生になるところ。もう中学生じゃないんだから」
 ちょっと意地になってしまった。
 少しでも大人っぽく見られたかった。
「そっか、これから高校生か。ごめんごめん」
 私の心を読んだのか、くすっと笑っていた。

 意地になったことがまた恥ずかしくなった。
 やだ、私何してるんだろう。
 落ち着かなくなって、つい目の前のパイナップルとバナナの位置を並び替えていた。

 隣でうっちゃんがパイナップルに割り箸を差し込みながら聞いてきた。
「ねぇ、リサちゃんは、彼氏いないの?」
「えっ、い、いません」
「へぇ、いないの。かわいいからもてるんじゃないの?」
 今度は三岡君が聞いてきた。
「いないです。私もてた事ないし」
「そっか、みんな見る目ないんだな。俺だったらほっとかないぞ」
「えっ」
 その時客が来た。
 その話はそこで腰を折られ話題はそれで終わってしまった。
 心のドキドキだけ残されて──。

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