遠星のささやき

第五章 やっと素直に

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 年が明けると、気になるのはそろそろやってくる自分の誕生日。
 2月10日でようやく16歳になる。
 早生まれは学年の中でも年下になる存在。
 でも私は同じ学年の中でも一層大人っぽく見えたかもしれない。
 それは化粧をしてるせいだからではないと自分で思っていた。
 それとも大人になろうとただ背伸びをしている状態なんだろか。
 ただ自分の周りの生徒達は、まだ子供だなとここでも冷めた目で見ていた。
 心にわだかまりを持ってるときは、素直になれないだけで、本当は自然と高校生らしく振舞っている皆が羨ましかったのかもしれない。
 そんな感情すら隠して、クラスの友達に合わせている自分がガラスの窓に映っている姿を見て、道化師がいると思ったもんだった。
 それを透過して外を見れば、冷凍庫の中のように冷え冷えしてるような寒空。
 それもまた道化師の自分の心と重なる。
 もう慣れっこになってしまった。
 自分を卑下していつまでも傷を負ったまま。
 どんなに大人ぶっていても、それってやっぱりまだ子供だったと、後になって思う。
 
 この年の始まりもこんなもんかと思っていたときだった。
 忘れようとしていた記憶をまた刺激された。
 トモから連絡が入った。
 きっかけはいつもトモ。
 だから嬉しいというより、鬱陶しいと強く嫌悪感が芽生えた。
 トモには何の罪もないのに。

「久しぶりだけど、元気してた?」
「ほんと随分久しぶりだよね。で、一体今さら何の用?」
 またいつものように気の強い答え方になる。
「ああ、別に用事はないんだけどさ、もうすぐ三岡がこっち戻ってくるからさ」
「えっ? どういうこと?」
「ああ、三岡の奴、あれから仕事で地方に出ていたんだ。やっとこっち戻ってこられるようになって、それで皆でまたリサちゃんと会えたら楽しいんじゃないか と思って、だから連絡したんだ」
 三岡君は仕事でずっとこっちにいなかっただけなの?
 私はなんか拍子抜けした。
 一人で強がって我慢していたけど、もうすっかり忘れられていると思った。
「なんで教えてくれなかったの?」
 この口調、トモには怒っているように聞こえたと思う。
 だからトモは必死に言い訳してきた。
「三岡に口止めされてた…… というより、俺が三岡のいないときに勝手にリサちゃんと連絡取らせないようにしただけだと思う。うっちゃんにもリサちゃんの 連絡先 は言ってないから、三岡は自分の留守中に俺たちからリサちゃんを離したかっただけなんだと思う」
「何それ」
「ほんと何それ…… だよね。それで2月10日なんかどう? その日三岡が帰ってくるんだ」
「えっ、2月10日?」
「どうしたの? 都合悪いの?」
「ううん、その日私の誕生日なんだ。なんか自分の縁のある日だからビックリしただけ」
「そっか、誕生日か。そしたら何かプレゼントしないとな。何か欲しいものあるかい?」
「別に何もいらない」
「じゃあ、俺がリサちゃんのために何か選んでやるよ」
 機嫌が悪い私の気持ちを変えるチャンスだと思ったのかトモの声が急に弾んだような気がした。
「いいよ」
 私は本気で遠慮した。トモからのプレゼントなんてどうせ趣味が悪いもので貰ったら困るような嫌な予感がする。
「それじゃまたその頃になったら連絡するよ」

 電話を切って、暫く受話器を持っていた。
 自分の中ではかなり驚き、放心状態だった。
 トモはいつも唐突に何か事を運んでくる。
 それも予期しない話を持ち出して、表面には出さないけど、心の中は仰天する思い。
 それが私にとって必ずしも喜ばしい話ではない。
 その話の後は何かを考えさせられて、重く苦しくなっていく。
 今回も私にどう対処しろというのだろう。
 三岡君に再会できるのは嬉しいけど、またその後でどっぷりと心の落ち込みにはまりそうで、折角ここまで立ち直ってきたのにまた振り出しに戻るのが私には 怖かった。
 かといって断れるわけもない。
 また暫くもんもんとしていた。
 でもトモは何かあるごとに必ず連絡してくれる。
 トモの存在も不思議なものだった。
 
 私が唯一自分の感情をぶつけられるのがトモ。
 でもトモは嫌がりもせずそれを受け止める。
 私はまだこの時肝心なことに気がついてなかった。
 
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