第十一章 真実は一体どこにあるのか問い掛けてみた


 昼休みになり、留美がケムヨとランチを一緒に取るのを知って、優香は気に入らないと一人でさっさとどこかへ行ってしまった。
 後味が悪かったが、これで気兼ねなくケムヨと話せるので留美には都合がよかった。
 幸い翔もついてこなかったので、ケムヨも留美から色々聞くつもりでいた。
 社員食堂は混み合って賑やかだったが、その人々の声と慌しい昼食の購買風景が却って二人のコソコソ話を隠してくれた。
 食堂の一番隅を陣取って、二人は昼食を取りながら話し始める。
「早速なんですけど、優香のことやっぱりどう思います?」
 留美は辛そうに表情を強張らせている。
「どう思うって言われても、起伏が激しい人ということかな」
「それもそうなんですけど、私が聞きたいのは疑われている件のことです。このままじゃ優香はここでは働けなくなりそうです」
「えっ?」
 ケムヨは箸を落としそうになった。
「実は誰かが派遣会社に優香のことで苦情を入れたんです。それで担当者がこっそり私に連絡してきて、事情を訊かれました。私は知らない、把握してないと誤魔 化しましたけど、いつかそれもばれてしまうでしょうし、そうなると今度は私が優香を庇ってると思われて、信用置けないということで派遣会社の登録を抹消されるんじゃないかもって心配になってきました。すでにきっと優香にも直接連絡が入ってると思います」
「留美ちゃん……」
「ケムヨさんどうしたらいいんでしょう。確かに優香は起伏が激しくて感情任せなところがあるし、でも仕事はきっちりして、彼女結構仕事できるタイプの子なんです。私には色々助けてくれたりしていいところもあるんですよ」
「それは分かってるけど、少し目に余るところもあるからね。今はなんか私が無視されてるし」
「そうなんですよ。優香は気に入らないことがあるとすぐ態度に出ちゃうから、きっと勝元さんが現れてケムヨさんが可愛がられてるのが気にいらないんでしょうね。勝元さんもろ優香の好みっぽいですから」
 率直な意見だとケムヨは苦笑いになっていた。
「それだけならまだいいんだけど、この間から優香さんには要らぬ疑いが掛かってるのが一番問題ね」
「そうでした。書類破棄のことやケムヨさんに向けた嫌がらせの件ですよね。私もつい疑ってしまったし、やっぱり犯人は優香なんでしょうか」
「それが、私も色々考えたんだけど、これといった証拠もないし、私としてはどうもそれは違うような気がしてきて」
 ここで留美の顔色がぱっと明るくなった。
「ほんとですか? それじゃあ一体誰が?」
「そこまではわからないんだけど、言えることは私と優香さんを嫌ってる人という事ね」
 ケムヨはこれ以上は分からないと首を横に振ってお手上げの態度を取った。
「一体誰がどうしてそんなことを……」
 留美は何か考えるように黙り込んでしまった。
「なんか他に怪しい動きをしている人いない?」
「いえ、全く心当たりありません。他の皆さんは非常にいい方達ですし、とても働き易い職場だと思います。それ以外と言えば他の部署で恨みを買ってるんでしょうか?」
「他の部署か」
 ケムヨは色々考えてみる。
 思い当たるといえば、吉永課長の不倫相手であったが、名前もどこの部署かも分からないし、その人が一緒に働いてない優香まで嫌う理由などなかった。
 益々分からなくなっていた。
「あっ、そう言えば真理恵さんから噂を聞いたんですけど、なんでも近々リストラするかもしれないって話です」
「えっ、嘘」
「そうなると派遣よりも社員がターゲットになるかもって真理恵さんは心配してました」
「一体どこからそんな話が出てるの?」
「私も詳しく分かりませんが、不況が絡んでますから、誰しも、もしやって危機感を抱くんじゃないでしょうか」
「だとしても、派遣やパートの私達を憎む理由にもならないわね」
「やっぱり私達だけでは解決しませんね。ここは主任の園田さんにも聞いた方がいいでしょうか」
「でも園田さんはきっと優香がはなから犯人だと疑ってるんじゃないかな。主任の立場だし、私達がこの話を持ちかけたら公になってこっそり解決どころではなくなってしまいそう」
「それもそうですね」
 また暗礁に乗り上げた。
 一体誰に相談すればいいのだろうか。理想としては公にせずに信頼が置けて先入観を持たずに客観的にこのことを見られる人がいいのだけど。
 そんなことをケムヨが考えていると、翔が頭に浮かんできた。
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