レモネードしゃぼん

その後 前編2


「あっ、もっと早く歩かなくっちゃ、これじゃ電車に乗り遅れちゃう」
 突然腕時計を見た樹里は慌てる。
「別にそれに乗れなくてもいいよ」
 奈美が暢気にきっちりしなくてもいいと示唆しても、樹里はそうも行かないと早歩きになった。
「ダメ、今日は休みだから混むでしょ。早く行かなくっちゃ」
 要するに、行き当たりばったりの二人には任せては置けない、樹里の責任感が燃え滾る。
 後ろから亜藍も追いつこうと走って来た。
「樹里の言う通りにしよう。本当のところアイツは結構楽しみで仕方ないのかもしれない」
 奈美の側まで追いついた亜藍がそう言ったが、それはしっかりと樹里の耳にも届いている。
 樹里は「誰の為だと思ってるのよ」と心で思いながら、後ろを振り向けば奈美と亜藍が肩を並べているのを見て、「まあ、いっか」と諦め気味に何も言わずに先頭を急いだ。
 全ては二人のためだと、樹里は何とかしてこの幼馴染の関係をそれ以上のものにしたいという気持ちだった。
 はっきり言えば余計なお節介なのだろうが、兄の性格を知りすぎてるだけに、妹も手伝わないといけない気持ちになっていたのであった。
 樹里も樹里なりに兄と離れて暮らすのは寂しく思い、人肌脱いでやろうとはなむけのつもりだった。

 遊園地に到着すれば、行楽日和と大型連休で家族連れが目立ち、すでに人で溢れかえっていた。
 そんな雰囲気も楽しいと、三人はにこやかに園の中へと入っていく。
 ディズニーランドとはいかないが、それなりにこの遊園地にもマスコット的な着ぐるみが居た。
 それらが入り口入ったところで人々を出迎えていた。
「カエルのキャラクターってイマイチだよね」
 樹里が、あまり相手にされていないカエルの気ぐるみを横目に、ぼそりと奈美の耳元で囁く。
「でもそれなりに小奇麗で愛嬌あるかもよ」
 奈美はそう答えたが、かわいいとまでは言えないようだった。
 目の前で、個性的な着ぐるみが愛想良く、通りかかる人々に手を振っている。
 樹里はデジカメを出して、奈美と亜藍にカエルと一緒に並べと指示する。
 他にもお洒落な猫や、りりしい姿の犬とかがいたが、子供達に囲まれていた。
 カエルが一番手薄で、樹里はシャッターチャンスとばかりにカメラマンになる。
 奈美も亜藍も戸惑っていたが、カエルがすぐに状況を把握して二人を手招きすると、いい写真構図となり樹里はシャッターを切った。
 その後もカエルは愛想良く、奈美と亜藍にちょっかい出している。
 とりあえずはいいスタートだと、樹里はその様子もこそっと写真に収めていた。
 自分が仕切ってこの二人をまとめてみせる。
 そんな思いで、しっかりものの妹として、大いにその立場を見せつけようと意気込んでいた。
 半ばプロジェクトでもあり、そう思うと遣り甲斐に繋がり、この時は含み笑いを見せながら、何もかも上手く行くと思ってならなかった。
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