第十二章
3
「こ、これは」
油性マジックで書かれた手紙は、裏にもインクが浸透していた。
裏返したとき、突然そこに文字が浮き上がっていた。 (
画像はこちらを参照)
「”5 +
5”のこの部分はひっくり返して文字を縦にすると『九十九』と読めるじゃないか。これはツクモの漢字じゃないか。そして”11”はカタカナの
『ニ』?、”037”はOWL
と読める、即ちフクロウのことだ。続けて読めば、ツクモ ニ フクロウとなる。これはどういうことだ? ツクモ、お前何か知ってるのか?」
ツクモは尻尾を振って「ワン」と答えていた。
暗号は解けたが、まだ意味が完全にに理解できない。
ツクモニフクロウとはツクモにフクロウを与えるということなのだろうか。
ジョーイはそこでフクロウがデザインされた方を向けて、一ユーロ硬貨をツクモの前に置いてみた。
ツクモは匂いを嗅ぐだけで、それ以上の反応は示さなかった。
コインに描かれている絵では小さすぎて、フクロウと判別できないのかもしれない。
夜も更け、ジョーイの疲れは頭の回転を鈍くさせる。
仕方がないと、その晩は謎解きは諦めて寝ることにした。
疲れ切っていたジョーイは目を閉じるや否や、ストンと谷底に落ちたように眠りにつく。
そのベッドの側でツクモも丸くなり眠りについていた。
この時もまたいつもの同じ夢を見た。
真相を知った後に見たその夢は、一層はっきりと家が爆発したときの記憶が映し出された。
ソファで眠るアスカ。
顔の部分はぼやけているが、手にぬいぐるみを抱きしめ、ブランケットを掛けられてスヤスヤ寝ている。
そしてジョーイは電話が鳴る音を聞いて受話器を取っていた。
誰かと話して、呼び出されて外に飛び出す。
人里から離れて、ひっそりと森の奥に建った家。
木々に囲まれた静かな場所だった。
大きな庭のそのまた向こう。
家に近づくのを恐れるように車が一台駐車していた。
その側で母親のサクラが手招きしている。
ジョーイは走り寄って母親に抱きつき、アスカが家で寝ていることを伝えた。
側に居た男がそれを聞いて、家に向かい中に入っていく。
しばらくした後、男がぬいぐるみを手に持って外に出てきた。
それをジョーイに手渡した。
その直後、突風が体を押し上げ、肌を焼き付けるような熱を感じた。
ジョーイは母親に抱きしめられ、怯えている。
振り返れば、黒々とした魔物のような煙を上げて家が業火に包まれていた。
母親を見上げれば、赤い炎の光を受けて涙を流している。
ジョーイはぬいぐるみをぎゅっと力強く抱きしめ、呆然と立ち竦んでいた。
目が覚めた時、暫く放心状態になっていた。
夢か現実か、その境目を漂うぼやけた状態。
メラメラと燃える炎がまだ目の前にちらつく。
悪い夢といっていいのだろうか。
実際に体験したことだというのに。
体もだるく疲れ切っていた。
夢の中で神経を消耗したのかもしれない。
時計を見れば、いつもの起きる時間だった。
だが学校に行く気分になれず、ジョーイはベッドに横たわり天井をひたすら見つめていた。
時計の針がどんどん進んでも起き上がろうとはしなかった。
「おい、ジョーイ学校に遅れるぞ」
トニーが心配して起こしに来る。
「俺、学校休む。シアーズにそう言っておいてくれ。どうせ昨晩のギーの一件のこと奴に報告するんだろ」
「まあな。ジョーイも少しは休んだ方がいいだろうな。シアーズもそう思っているかもな。じゃあ、俺は言ってくるわ。昨日怖い思いしたから、眞子ちゃんに会って慰めてもらわなくっちゃ」
「その白鷺先生だが、止めた方がいいぞ。やっぱり大人の女性はずるいぜ」
「なんだよ、俺の夢壊すようなこと言うなよ。絶対、俺、くどいてやるんだから」
何も知らない方が幸せなのかもしれない。
ジョーイはトニーの好きにさせておいた。
トニーは鼻歌交じりに階段を下りていく。
命に係わるような事件に巻き込まれたというのに、それをすっかり忘れているように思えた。
トニーのお気楽さはジョーイも見習いたかった。