第一章


 操縦室にクレートがやってきたとき、マイキーとジッロは同時に振り返るも、その表情は口をあけたままで言葉を失っていた。
 アクアロイドはクレートの存在を確かめもせず、ひたすら前をしっかり見据え黙ったままで突っ立っている。
 クレートは瞬時に嫌な予感を覚え、焦点を前方に合わし、すぐに状況を飲み込んだ。
 暫くは派手な映画のシーンを見て圧倒された観客のようにその光景を見つめていた。
 そのうち、障害物が前から近づいてきて、マイキーはひょいといつものお手前でそれをかわした。
 剥がれ落ちた鉄板のような部品が、焼け焦げた傷跡を無残に残して、哀れに流れて行く。
「あーあ、派手に破壊されてる様子だね。だけどこれって一体何が起こってるの?」
 さっきまで原型を留めていたに違いない、しかし今となっては宇宙のゴミになってしまったスペースデブリが、川で流されていくように広い宇宙を彷徨っている。
 その流れてくる先には、爆破されて所々煙を帯びているスペースコロニーがあった。
 何者かに容赦なく襲われ、外から無闇に攻撃された痕が痛々しく目に映る。
 ジッロはアクアロイドが襲われたときの映像を思い出し、海賊に唾棄する気持ちで眺めていた。
「ひっでーな。おい、アクアロイドよ、あれって、あんたの頭を真っ二つにかち割った奴らの仕業だろ。あそこには一体何があるんだ?」
「いえ、まだ思い出せません。あそこに入ってみれば何か思い出すものがあるかもしれません」
「おいおい、破壊されているところに入って行けだと? ちょっとそれきついな。この船も巻き込まれて攻撃受けたらいやだ」
 マイキーにとっては自分の愛車のようなものなので、傷つくのは避けたかった。
「だけどさ、ここまで来たんだし、行かないと話になんないんじゃねぇ? それにあんなに派手に攻撃してるのも何かがあるってことだろう? お前はあいつらに何かを言った為にこんなことになってるんじゃないのか」
「でも、私、ほんとに何も思い出せなくて。あの、だったら、私をあそこで降ろして下さい。皆さんにご迷惑はおかけしませんから」
「それはダメだ。こちらとしては君の目的が何かきっちりと知ってからじゃないと降ろすわけにはいかない」
 クレートが鋭い矢を放つように言い切った。
 少しでも情報が欲しいと、ネオアースからの使者を手放すことができなかった。
「じゃあ、どうすればいいの?」
 マイキーが恐る恐るクレートに振り向いた。
「今から皆で乗り込む。マイキー、潜んでる敵に注意して被害が少ない場所にこの船をつけろ。そしてジッロ、戦闘配置につけ」
 一旦口から発せられたクレートの命令にはもう逆らえないものがある。
 覚悟を決めたように二人は「了解」と叫んだ。
「あの、私はどうすれば」
 アクアロイドはクレートの様子を探るように声を掛けた。
 クレートは静かに視線を向ける。
「そこに座って見ていろ。そして何か思い出したらすぐに報告しろ。それだけだ」
「はい。かしこまりました」
 アクアロイドは言われたとおりに、大人しく空いている席に座り、前を見据えた。
 クレートは一時、アクアロイドの後ろ姿に訝しげに一瞥を投げたが、すぐに気持ちを切り替え、再び目の前の破壊されているコロニーを慎重に見ていた。
 コロニーは筒状の形態でまるでドラム缶に羽が生えたようなシンプルな形ながらも、大きな豪華客船のような存在感があった。
 巨大宇宙船にも見え、数百人はそこで生活できるような環境だった。
 マイキーが用心して、後方に回り込んで船をドッキングさせられる場所を探る。
 出入り口の一つと見られるデッキが見つかり、そこから潜りこんだ。
 船をそこに置き、宇宙装備を決め込んで三人とアンドロイドはコロニー内に潜入する。
 攻撃された爆破音が内部から聞こえてくると、緊張感が高まり身を強張らせた。
 外から中に続く通路を走り、さらに奥深くコロニーの中心部へ続くドアを開けたとき、うっすらと煙たい空気を感じた。
 だが、そんなことより、目の前の光景の方に驚きを隠せなかった。
「一体、これはどういうことだ。こんなコロニーなど見た事がない」
 クレートがつぶやいた。
 そこには木々が集まり、森の中そのものだった。
 コロニーといえば、人間が住む生活空間なために、いろんな形はあれど住める家というものが密集する。
 多少環境のための木や草花は植えていても、ここは不思議なくらい木しか植えられていなかった。
「これって、話に聞いてた自然というものなのか。うわ、この木には実がなってるぜ」
 マイキーが手を伸ばしてそれをもぎ取り、手で潰した。
 そこからナッツが現れた。
「ここって、食物を出荷するための農場なんだろうか?」
 ジッロも同じように実をもぎ取った。
「いや、その割には実がなってる木は少ない。寧ろこれはこの自然に合わせて生えてるだけにすぎないだろう」
 周りを確かめ、クレートが判断した。
 辺りは木、足元には土と草花しか広がっていない。
「なあ、なんか思い出したか?」
 ジッロがアクアロイドの背中をポンとたいた。
「えっ、そ、その、私にもさっぱり何がなんやら」
「やっぱり、まだだめなの? だけどさ、人住んでるんだろうか」
 マイキーはもっと知りたいと、先を進む。
「おい、油断はするな。どこに敵がいるかもわからないんだぞ」
 ジッロも銃を構え、歩き出した。
 クレートは何も言わず二人の後をついていく。
 アクアロイドも無言でついていくが、あたりをキョロキョロしていた。
 暫くすると、前方から声が聞こえてきた。
 用心して一同は木々に身を隠しながら、様子を探ろうと近づいていく。
 そうしてその先にこの森の景色にぴったりのログハウスがあるのに気がついた。
 その周りを5,6人のガサツそうな人間がうろうろしていた。
 手当たり次第にかき集めたものがログハウスの前に集まっていた。
 それは機械の部品であったり、食べ物であったりとお宝と呼べるようなものではなさそうだった。
「ちぇっ、なんだよ、価値のありそうなものなんてないじゃないか。あの変な奴、何が大切なものを取りに行くだよ。なんも大切なものなんてないじゃないか。それになんだ、このコロニーは。気味が悪いほどに人が全然いないじゃないか」
 ボスらしき体格のいい男がぶつぶつと愚痴を言っていた。
 あれはビデオに記録されていたアクアロイドの頭をかち割った男だった。
 そこに一人の部下が駆けつけ報告する。
「キャプテン、この裏で墓らしきものがありました」
「なんだって、ここは墓場なのか。で、その墓を掘り返したのか」
「いえ、その、さすがにそれは……」
「バカ野郎、もしかしたらそこにお宝が眠ってるのかもしれないぞ。さっさと掘り返せ」
 いくら上からの命令でも、手下の男は越えてはいけないものを感じていう事が聞けなかった。
「何を怖がってる。俺たちは宇宙の海賊だぞ。墓ぐらいでビクビクするな」
 手当たり次第に銃をぶちまけ、周りの者は仕方なくその墓がある方へと向かった。
 ボス男も後からついていった。
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