第十章
7
皆一斉に振り返り、入って来た人物も動きが止まって一人一人を見ていた。
一瞬頭が白くなって記憶が飛んでいた。
知っているのに咄嗟に見ると誰だか思い出せない、そんな状況だった。
時間にして2、3秒のことではあるが、その後「あー」という叫び声が聞こえ出す。
「お前たち、ここで何をしている。月にいるのではなかったのか」
「ガース隊長こそ、宇宙ステーションからのお帰りですか」
クレートの目が鋭く矢を放つようにガースを睨む。
「よく俺たちが月にいたこと知ってるじゃんか。それってジュドーの情報?」
ジッロは持っていたグラスをテーブルに置いた。
手をあけておくのはすぐに腰の銃に手をかけるためだった。
「ちょっとちょっと、ガース隊長とやら、あんたさ、よくもしゃーしゃーと艦にも戻ってこれるね」
マイキーが挑発する。
「どういう意味だ。ここは私が所属している艦だ当たり前だ。そっちこそ、なぜここにいるんだ。またシド艦長が血迷ったのか」
「お父さんの悪口言わないで下さい」
キャムは強く睨んでいた。
ガースも馬鹿ではない。
この状況を見て、キャムがとうとうシドと親子関係であることを知ってしまい、そしてシドはキャムをつれてネオアースに向かおうとしていることくらい読めた。
「ガース、一体何を企んでいる」
「クレート、お前ごときの青二才に、名前を呼び捨てにされる資格はない。私は君よりも年上だぞ、人を尊重することを習わなかったのかね。しかもここはスペースウルフ艦隊。貴様の船の上ではない。慎め」
「やだね、このおっさん。自分がこの船の重要人物だと思っているよ」
「ジッロ、よせ。我々が口を挟むことではないのかもしれない。シド艦長にお任せしよう。あくまでも我々はゲストという立場だ」
「クレート、一体何がいいたい」
「私は、今ここでガース隊長殿と争う気がないということです」
嫌味をこめた笑みを浮かべつつ、慇懃無礼に答えていた。
「私と何を争うつもりだ。小ざかしい」
「あーもう見てられないな。あのさ、俺たちもうわかってるんだ。おっさんがネオアース側の人間だって。そんでキャムをエイリー族につれていくのを快く思ってないこともさ」
マイキーがいった。
しかし、開き直って、ガースは下品に笑い出した。
「何をいうかと思えば、そんなことか。それは当たり前じゃないか。宇宙の秩序を守るため、混乱をさけるためには、お前たちは何も分かってない」
「わかってないのはそっちだ。いいように利用するだけ利用して、自分は甘い汁を吸ってるんだろ」
キャムが我慢できずに刃向かう。
「なんとでも言えばいい。君たちが何を言おうと私には堪えない」
ガースはその部屋から出て行った。
「あれ、なんかあっさりだった」
マイキーが拍子抜けしていた。
「あのおっさん一体何を考えているんだ。ここまで悪事がばれているのに、あの落ち着きぶりはなんなんだよ」
ジッロは首を傾げていた。
「僕、ちょっとお父さんの様子見てきます」
キャムが突然青ざめて何かを感じ取っていた。
ドアを開け、通路にでて一目散に駆け出した。
先ほど、出て行ったはずのガースの姿はすでに見当たらず、それがますますキャムを不安にさせていた。
「待つんだ、キャム」
クレートもすぐに後をつける。
キャムが何か不安を感じ、感覚を掴んだとき、それは何かの暗示でもある。
キャムがエイリー族の血を引いている以上、そのような感覚が受け継がれているだけに、クレートもなんだか胸騒ぎがしてきた。
「おい、二人とも一体どうしたんだよ」
「とにかくおいかけるしかないじゃん」
ジッロとマイキーも駆け出した。
そしてその先の大広間では、ガースがすでに到着しており、それと同時に数人の兵士が銃をシドに向けていた。