第十章


「一体どういうことだ、ガース隊長」
「シド艦長、この艦にはすでに私サイドの人間がいるのです。所詮、あなたはお飾り程度の艦長にしか過ぎない。それもエイリー族たっての願いで、その身柄を 保証されていた。それをネオアース側が要求を飲んであなたを影で支えていただけのこと。あなたは所詮一人では何もできなかった人だ。この艦の本当の艦長は 私が正しい。この先、スペースウルフ艦隊は私が指揮を取る。あなたはお払い箱なのです」
「ガース隊長、早まるでない。まだやり直しはきくぞ。今なら、私は寛大な処置で、そなたを許す。だから馬鹿な真似はやめるんだ」
「何を今更、そちらこそ命乞いですか?」
「いや、私はガース隊長にチャンスを与えようとしているだけだ。よく考えてみろ、この先ネオアースの嘘がずっと続くと思うのかね。エイリー族も今回キャム が姿を現さなかったとしても、いずれ新しい子供を作る準備はしているはずだ。その時がきたらまた去って行くことだろう。その度に、ネオアース側の人間は邪 魔をして行くつもりなのか? そんな事がこの先続くなんて思わないだろう」
「なんとでも言うがいい。その間にネオアース側もずっと留まってくれるエイリー族を募るかもしれない。考える時間がタップリあるのなら、そのとき必ず何かの対策をしていることだろう」
 シドは思いっきりため息をついた。
「それでは、ガース隊長は私を裏切るということでいいか」
 シドはあまりにも悠長に喋っていた。
「最初から私はシド艦長に忠誠を誓ったつもりはないが」
「ならば、そなたはもうスペースウルフ艦隊の人間ではない」
「それはシド艦長への言葉になるが」
 シドは残念そうに、片手を挙げて合図を送った。
 そのとたん、シドに向けられていた銃はガースに向けられ、先ほどまで銃を構えてなかった兵士までもがそれをガースに向けた。
「一体どういうことだ。お前たち、私の言う事がきけないのか」
 ガースは後ずさった。
「だから、チャンスを与えたではないか。ガースよ、クレートからの話で、そなたとネオアース側の関係はすでにばれていた。そして、私が、その先の事を考え ないとでも思ったのか? 必ずガース側の兵士がいると思ったからこそ、この会議で説得してたのだ。ここにいるアクアロイドの助けもあり、エイリー族の真 実、ネオアース側の陰謀、それらを全部話して、そしてこれからこの艦がどういう役割をしていくかを説明し、どちらがいいか考えてもらった。ガースはこの兵 士達に、嘘ばかり吹き込んでたみたいだな。そんな上司と私とどちらの下で働きたいか問いかけたら、皆私を選んでくれたよ。それでこうなる事を予測して、一 芝居うってもらったって訳だ。折角やり直しできるチャンスを与えたのに、残念でしかたがないよ」
 この時のガースの悔しさは、恐ろしいほどに顔に表れ、とてつもなく醜い姿をさらけ出していた。
 どうすることもできずに、ガースは気が狂ったほどに大笑いする。
 その後は意気消沈してがっくりと肩を落していた。
 皆それを見て哀れだと思って気を許してしまった。
 キャムもすっかり自分たちが勝ったと思い込み、父親の側によろうとしたのが間違いだった。
 その隙がガースの勝負どころだった。
 ガースは俊敏に動いて、キャムを捕まえ、頭に銃を突きつけた。
「キャム!」
 ジッロとマイキーが割れんばかりに叫んだ。
「勝負は最後まで諦めてはいけないってことだ」
 キャムは自分の失態でまた迷惑を掛けてしまうことに悔やんでいた。
 ゆっくりと身を動かし、キャムに向けた銃の安全レバーに手をかけ、通路を空けろと要求する。
 ジッロ、マイキ、そしてクレートは言われるままに端へよった。
 キャムはクレートを見つめ、目を潤わせて申し訳ない顔をしていた。
「ガース、キャムを放せ。一体どうするつもりだ」
 シドが近づこうとする。
「おっと、あまり近寄らないでくれないか。この子の頭が飛んでしまうぞ」
 キャムを人質に取られては、どうしようもなかった。
 ガースは最初からキャムを始末するつもりでいただけに、容赦なくキャムを撃つ可能性が高かった。
 キャムが居なくなれば喜ぶのはネオアース側。
 万が一自分が危うくなったら、キャムも道連れにしそうで、誰も手が出せない。
 ガースはキャムを連れて、格納庫の宇宙船へとめがけてジリジリと近づいた。
 その後で、一定の距離を保ちながら、皆後をつける。
 クレートはクローバーと顔を合わせ、自分がキャムを助けようとしている事を知らせていた。
 クローバーにそれを手伝って欲しいと示唆して、徐々に二人は近づきあった。
 ガースが格納庫に入ったとたん、キャムを抱きかかえて走り出した。
 そこに停泊している宇宙船が隠れ蓑となり、姿がはっきりと見えなくなった。
 ガースは皆を混乱させて自分が乗り込む宇宙船の目途をつけていた。
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