第三章


「もちろん繋げてくれ」
 クレートはキャプテンとしてあらん限りの威厳を身に纏い、落ち着いて個人通信用ボタンのスイッチを入れる。
 クレートの正面にパネルが浮かび上がり、そこには艦隊の代表者とされる戦闘帽を被った男がきりっとした表情で立っていた。
 クレートと一対一で面と向かったその瞬間から、どちらの表情も油断がない厳しさで相手を観察し合う。
「こちらスペースウルフ艦隊、突然の非礼を失礼する。あることで調査を進めているのだが、ご協力願えるだろうか」
 人にモノを頼んでいても、愛想なく、体は反り返り気味で上から目線であった。
「協力できる範囲であればだが、お受けする」
「いや、何、難しいことではない。ただ情報を集めているだけに過ぎない。ここからGLA15−GLO258地点でコロニーの爆発があった。それについて何か知っている事があれば教えて欲しいだけだ」
 ジッロとマイキーは、通信の後でハッと息を飲み、咄嗟にキャムの方向を見つめた。
 キャムもそれで自分の住んでたコロニーだと気がつき、遅れて目を見開いて振り返ってクレートの反応を確かめた。
 クレートは表情を変えず、モニターを見据えている。
「それに係わることかどうかは分からないが、その付近の隕石が流れるあたりで、煙が上がっているのを昨日見たが、海賊たちの襲撃と判断して、こちらは近寄らずに回避した。それ以上の事は見ていないので詳細は分からない」
 クローバーの船を見たことだけは事実だが、自分がそれに係わった一切のことは言うつもりはなかった。
 モニターの男は暫くクレートの様子を伺っていたが、クレートの態度からは怪しい仕草は全く見られず、表情を変えずに再び話し出す。
「その情報を得ただけでも有難い。礼をいう。ところで、そちらはどこの所属のどういう役割をしているものだ? 所属名を教えて欲しい」
「我々は4-leaf-cloverデリバリーサービスという組織だ。この付近の荷物運びと物資などの運送を請け負っている。とても小さいが、インデペンデントで個人で行っている。それで生業しているものだ」
「乗組員は何名だ」
「キャプテンの私を入れて5名になる」
「私はパトロール部隊隊長ガースという。そちらの名前は?」
「私はクレートだ」
「クレート、ご協力に感謝する。もし何かこれに関しての情報を耳にしたときは、連絡頂けると幸いだ」
「こちらこそ、もし何か仕事があれば連絡頂きたい。我々は安全に確実に運送する事をお約束する」
「わかった」
 その後は軽く戦闘帽の翼に触れ、首を振った。
 そして通信は切れた。
 誰もが、その瞬間に力が抜け、椅子から滑り落ちそうになっていた。
「おい、クレート、嘘ついて大丈夫なのかよ」
 ジッロは心配げな目を向けた。
「あの場合はああするしかない。スペースウルフ艦隊の行動の意図が分からない限り、本当の事を言えばクローバーもキャムも連れて行かれる可能性があった」
「あの艦隊が調べまわってるってなんか怪しいよな。一体何を調べてるのやら。あいつらに係わると容赦ないから、避けるが勝ち」
「そうそう、マイキーの言うとおりだぜ。敵か味方かも分からない、得体の知れない組織だろ。噂じゃ、ネオアースの飼い犬とも言われてるみたいだし、信用置 けないよな。でも、一体何が係わってんだ? おい、クローバー、お前が記憶なくすから、余計にややこしくなってるじゃないか」
「そんなこと言われましても、私だって、あの海賊に襲われなかったらスムーズに事が運んで、結局はあなた達に何も迷惑かけることなどなかったと思います。全ては海賊が悪いんです」
「でもさ、偶然とはいえ、あの海賊もなんでクローバーの船の付近にいたんだろうね。あの辺りは滅多に他の船は通らず、隕石がゴロゴロしているからよほど腕がよくなかったら近づかないところなんだけどね」
 マイキーは腕を組んで頭をかしげていた。
「あのう…… スペースウルフ艦隊って一体なんなんですか?」
 根本的な事を知らないために、なぜ自分のコロニーの事を調べているのか検討もつかず、キャムはおどおどとして口を挟んだ。
「スペースウルフ艦隊はシド艦長が率いる独立した国家のようなものだ。ネオアース、地球外地区、海賊のどの組織にも所属せず、自分達で全てを賄う流離いの国家と思えばいい」
 クレートから説明を受けたが、それでもキャムはよく分からなかった。
 その表情を汲み取ってクレートは付け足した。
「私達も実際のところよく分かってない。ただ、あいつらに逆らえばあっと言う間に潰される。力をかなりもった権力者だ。味方か敵か、それがはっきりしない ために、周りは全く係わる事を毛嫌いする。ネオアースですら、放っているくらいだ。裏できっと何かの繋がりがあるに違いないと私はみてるが、何もしなけれ ば無害なために、避けるのが一番賢い方法だ」
「でもさ、そういいながら、クレートはちゃっかりと、仕事のこと宣伝してたぜ。いいのかよ」
 ジッロは苦笑いになっていた。
「ああ、別にいいだろう。どうせこんなちっぽけなところには頼みに来るわけがない。運びたい物があれば、あの組織の誰かが届ければいいだけだ。ちょっとしたジョークさ」
「なるほど。さすが俺たちのクレートだね。あのスペースウルフ艦隊に冗談言えるなんて、すごいもんだよ。俺なんて、もうビビリまくって玉ひゅんなんてしちゃったよ」
 マイキーの言葉に、キャムは一瞬「ん?」となって、気がついたとき、陰で恥ずかしくしていた。
「おい、どうしたキャム? なんか顔が赤いぜ」
 ジッロに指摘され、キャムは咄嗟に立ち上がった。
「あっ、その、僕も緊張しちゃって。あの、トイレ行って来ていいですか」
「なんだよ。我慢するなよ。早く言って来い。ここで漏らされたら困るぜ」
「そうだよ。男同士なんだから恥ずかしがることないんだよ。例えそれが大きい方であってもな」
 ジッロとマイキーに言われ、キャムは慌てて走って出て行った。
 やはり男同士の会話にはどこか恥じらいがあった。
 クローバーはいつものポーカーフェイスで一部始終を目で追って見ていた。
 クレートは意外にもくすっと笑ったが、すぐに真顔に戻していた。
inserted by FC2 system