第三章
9
ゲート内は特に変わったところはなく、一度入り込んで決められた場所に降り立てば、そのままベルトコンベアーのように自動ですーっとコロニー内に送られた。
トンネル内を通り、いくつものの頑丈なドアが開いてはそこを通っていく。
宇宙とコロニー内の隔たりを何重にもしてガードしていた。
内部に入る最後の扉が開いたとき、明るい光が船を照らした。
コロニーの中ということで頭上の高さに限りはあるが、地球と変わらないように映像で作り出された空が演出されている。
円滑に宇宙船を誘導する通信を受けながら、マイキーは停泊できる場所へと向かっていた。
そこは宇宙からの船を向かえる玄関であり、一般的にスペースポートと呼ばれている。
ネゴット社専用と言われても、一般のものと変わらない設備と広さを誇っていた。
至るところで物資を運んできた貨物船が停泊し、荷物の運び下ろしがされていた。
『ようこそ、セカンドアースへ』と書かれた電光サインが、空中で光って飛び回っている。
「セカンドアースか。ふざけた名前だぜ」
ジッロが気に入らなさそうにつぶやいた。
「まあ、いいじゃないの、名前なんてなんでも。それなりにここはなんか面白そうなとこみたいよ」
マイキーは地面に光る誘導ライトを追って、ゆっくりと船を動かし、そしてやっと停泊の場所を与えられた。
「さあてとつきましたよ」
完全にエンジンを止め、船は静かになる。
休憩する暇もなく、すぐに届け先からの運搬車がいくつも船に群がり、荷物を受け取る準備が施された。
「マイキー、貨物室のゲートを開けろ」
クレートは素早く立ち上がって、すぐに貨物室へと向かった。
それに感化されて、キャムも走ってついていく。
「おいおい、キャム、慌ててこけんなよ」
後からジッロが追いかけていた。
マイキーは停泊後、コンピューターをはじき出して異常はないか船の点検をする。
燃料の補充の必要性など、色々と細かいチェックをしていると、クローバーも何か調べていた。
「あれ、クローバー、何してんの?」
「はい、このコロニーの情報が案内されてたので、受信しているところです。観光ガイドみたいなもんですよ。ある程度の見所とかお薦めが分かれば、役にたちますでしょ」
「なるほど。ここは何かと娯楽にも長けてるみたいだから、そういう情報があると重宝するね。で、一体どんな情報があんの?」
「はい、大きなショッピングセンターや、カジノといった施設、数々のエンターテイメントショーにアミュージメントパークとか、とにかく遊べるところが一杯ですね」
「で、一番のお薦めは何?」
「そうですね、えーっと、あれ、これは」
「どうしたの?」
「なんだか、この情報だけ制約があって、ここから先は以下のことに同意しなければ見られないってあります」
「何、それ。なんかすごい情報そう。いいじゃん、同意して同意して」
「でも、これは自己責任となるので、これらの情報で何らかの不利益が起こった場合、ここではなんの保障もしないってありますけど。なんかやばそうですよ。いいんですか?」
「いいじゃん、ちょっと見るだけなんだからさ」
「は、はい。わかりました」
クローバーは同意をクリックして、その情報を開いた。
そしてマイキーは見るなり鼻を膨らまして興奮していた。
「荷物は以上だ。ここにサインをお願いしたい」
全ての積荷を受け渡し、クレートが小さな端末機のパネルを代表者に渡していた。
首にぶら下げていたカードをその機械に通し、そして軽くタッチすれば受理完了と文字がでてきて、これで目で見るように正式に契約が終了した。
荷物はそのまま数台のトラックに乗せられ、視界から遠ざかって行く。
キャムは不安そうにそれをいつまでも見つめていた。
クレートはキャムの抱いた胸騒ぎを収めるかのように、軽く肩に手を置いた。
「初めての仕事で不安もあるだろうが、無事に事は終わった。私達はこれであの荷物とはもう関係がなくなったんだ。何も心配することはない。後は、あの送り主の男と、受取人との問題だ」
「は、はい」
自分の胸騒ぎの理由が分からないだけに、それ以上何も言うことはできなかった。
これでビジネスは終了したことになる。
無事に運べたことだけでも良しとすべきだと自分に言い聞かせていた。
「なあ、クレート、次の仕事の予定とか入ってるのか?」
ジッロが言った。
「いや、今のところゼロだ。まあウィゾーに頼めば小さい仕事ならすぐに回して貰えるだろうが、数をこなさないとあまり利益がでないかもしれない」
「だったら、大型の仕事が来るまで、結構ここで羽伸ばせるってことか。やったぜ」
「おいおい、そんな遊ぶ余裕はうちにはないぞ」
「まあまあ、そんな硬いこと言わずに、ここはカジノとかあるし、持ち金増やせるかもよ」
「そんな上手く行く訳がないだろ」
クレートは一蹴する。
「あ、あの、僕なんか上手く行きそうな予感がします」
遠慮がちだが、黙ってはいられなかった。
このコロニーに降り立ってから、何かに気が惹かれている気分がして、またキャムの直感が働いた。
「おっ、キャム、結構ギャンブラーか? 仲間だな」
ジッロはキャムの肩に手を回し、男同士のノリとしてぐっと引き寄せた。
「きゃっ」
突然のことについ素で小さく悲鳴が出てしまい、キャムは焦った。
誤魔化すために、慌てて思いっきり声を低くして「ガハハハハ」と無理して笑い、ジッロの真似をしてがしっと肩を抱き返した。
自分でもわざとらしいとは思ったが、ジッロはそれもおちゃらけたノリだと特に気にすることなく、一緒になって笑っていた。
「ほうら、キャムだって賛成だ。絶対マイキーも俺達につくぜ。これで多数決で決まりさ」
ジッロは堂々としてクレートにアピールしていたが、キャムは自分らしくないその行動に落ち着かず、見るからに無理をしているぎこちなさがあった。
クレートは何か言いたげに厳しい目を向けたが「好きにしろ」と最後は許可していた。
「但し、深入りはするんじゃない。少しの遊び程度ということだ。わかったな」
「ラジャ」
ジッロはキャムから離れるとピンと背筋を伸ばして、敬礼していた。
遅れてキャムも真似をしたものの、背筋は曲がって頼りなかった。
「ようし、キャム、一杯稼ごうぜ」
どんと強く背中を叩かれ、キャムは咳き込んでいた。
「なんかお前、ほんとに華奢だな。発育不足なんだろうな。早く大人になれよ」
「僕、ジッロとあまり年変わりませんけど。ジッロだってまだ大人じゃないと思うんですけど」
「おっ、口だけは一丁前だな」
ジッロはどこまでもキャムを子ども扱いしていたが、キャムの膨れる顔を見るのが結構好きだった。
その後、マイキーにカジノの事を伝えようと、ジッロは走って船内に戻って行った。
突然、キャムはクレートと二人っきりになってしまい、どこか落ち着かない様子だった。