第四章

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「それで、結局何もせずに戻ってきたのか」
 クレートが腕を組んで、多目的ルームのテーブルについてガツガツと食事をしている三人を見下ろしていた。
 その側で、クローバーが忙しく次々と料理をだしている。
「でも、無事でよかったです。心配しましたよ、キャム」
 クローバーは温かいお茶をキャムの前に優しく差し出した。
「ありがとう。クローバー」
 カップから湯気が出ているのを、何度も吹いて、ゆっくりと口をあてた。
 熱かったが、それを飲み込むと体の中で火が灯ったように、温かさを感じた。
 ちらりとクレートを見れば、呆れた表情ながら、おかしそうに口元が緩んでいる。
 それを見るだけで、あの時落ち込んだ気分を忘れるほどにキャムはとても落ち着いた。
 その表情は、知らずと、にこやかになってクレートを見ていた。
 ジッロはキャムのその表情を見るや否や、フォークを持っていた手元が止まった。
 ここへ戻ってくるまでは暗く落ち込み、何を言っても愛想すら見せなかったのにと思うと複雑な気分になっていた。
 艦内に戻ってくるなり、報告を求められたので、マイキーが正直に自分の計画していたことも含めすでに全てを打ち明けていた。
 クレートはため息を吐きながらそうじゃないかとすでに感じていたと言った。
 それでもジッロがどこかで歯止めになるだろうと思っていたし、キャムもホイホイとついて行くことはないだろうと信用していた。
 どんな過程であれ、結果は何事もなかったと言うことはクレートの判断は正しかったということだった。
「しかし、全くお金を使わなかったことは予測できなかった」
 ジッロから返してもらったカードを指先に挟んで見つめていた。
「いいじゃないのさ。節約ができる部下を持ったということさ。なっ、ジッロ」
「よくもまあシャーシャーといってくれるぜ。マイキーが一番やばいことに金使おうとしてたくせにさ」
 ジッロは目の前の丸い食べ物をつまんで、マイキーに投げていた。
「食べ物を粗末にすんなよ」
「はいはい、すみませんでした!」
「ジッロはなんか機嫌が悪いですね」
 クローバーがあざとく言うと、ジッロもなぜかわからないながら、急にイライラしていたと気がついた。
「僕が原因かもしれません」
 キャムが申し訳なさそうにジッロを見つめると、ジッロは口に運んでいた食べ物を喉に詰まらせそうになって咳き込んだ。
「あら大丈夫ですか」
 クローバーが背中を叩くと、それはすぐに落ち着いた。
「僕もジッロを色々と振り回してしまいましたから、きっとお疲れなんだと思います。もちろんマイキーにもです。本当にごめんなさい」
「何謝ってんだよ。もういいじゃないの。結局は何にも悪いことは起こらなかったんだし、キャムが謝ったら俺も謝らなくっちゃならないじゃん。もう、仕方ないな。ジッロ、ごめんな」
「別に怒ってないし、疲れてもないよ。とにかく、明日は楽しもう。それにアイシャのコンサートだって誘われてんだしさ。皆で行こうぜ」
「あの、クローバーはやっぱり街には連れて行けないでしょうか。クローバーだけまた留守番ってちょっとかわいそうです」
「キャム、いいんですよ。クレートが一緒に行ってくれれば安心ですから、私は大丈夫ですよ」
「だったらさ、変装して行けばいいんじゃないの。服来てさ、帽子被ってサングラスかけてマスクしたら絶対ごまかせるって」
「マイキーのアイデア、とてもいいと思います。それならクローバーもアクアロイドだと思われないかもしれません」
 キャムがクレートをチラリと見る。
「言いたい事があるなら、はっきりと私に言いなさい」
「クレート、そう意地悪にならなくてもいいじゃん。どうせそれでOKって言うんだろ」
 マイキーが助け舟を出すと、クレートは口元を緩めて軽く頭を縦に振った。
「やった! よかったね、クローバー」
 キャムの喜ぶ声が明るく広がると、誰もが知らずと顔が弛緩して笑みを浮かべた。
 キャムの存在は確実にこの船の雰囲気を変えている。
 特にジッロは、それを一番に感じていたかもしれない。
 キャムが明るく跳ね回る姿に自分も心躍らされてしまうからだった。
 しかし、それを素直に認めてしまうと、根本的に自分の中のものが崩れてしまいそうで、何かの間違いだと否定する気持ちも根強くある。
 それでも、どうしてもキャムを目で追ってしまう自分がいる。
「俺、もう寝るわ。やっぱりなんだか疲れた」
 ジッロは突然立ち上がり、自分をコントロールしようと突っ張っていた。
「ジッロ、なんだか顔色が優れないが、大丈夫か」
 クレートに言われ、ジッロは「ご冗談でしょ」と笑って答えていた。
 だが、胸の辺りが重苦しく、もやもやしているのは確かだった。
 それはキャムを見ると、激しく反応するのが厄介だった。
 ジッロのそんな気持ちなど知らずに、キャムはクローバーと楽しく会話して笑っていた。
 
 その頃、宇宙の片隅でスペースウルフ艦隊を率いるシド艦長は、コロニーの爆発の原因を調べるのに余念がない。
 そして、隕石の中で乗り捨てられたネオアースの宇宙船を発見し、その宇宙船が目指していた目的地を調べ上げ、海賊に襲われたときの映像も見つけていた。
 その結果シドは、コロニーも海賊に襲われた可能性が高いと推測する。
 しかし疑問もいくつか残る。
 ネオアースの船に乗っていたアクアロイドはカザキ博士のいるコロニーを目指していた。
 その目的はなんだったのか。
 ダメージを受けたはずのアクアロイドはどこへ姿を消したのか。
 シドは厳しい表情となり、コンピューターのスイッチを押した。
「全艦に告ぐ。映像に映っていた海賊達を探し出せ。そして行方不明となっているアクアロイドもだ」
 シドの表情は強張っていた。
 ネオアースが何らかの動きを見せた事で、この宇宙のバランスが崩れるのではと懸念していた。
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