第四章


 観光地化され、ホテルが集まって建ち並ぶ一角は、多様な人が溢れていた。
 コロニー出身者の観光スポットとして作られているだけあって、かつて地球で反映していた国の観光名所がコピーされた外見のものが目立つ。
 ネオアースの各国々のシンボルの数々。
 最初は物珍しく圧倒されても、時間が経てば見る目が変わって心に変化をもたらす。
 それは思いを馳せても、本物を見られない慰みを植えつけられ、結局は酷なものになるからだった。
 だが、思っていても誰もそのことを口にしないのは、ネオアースの思う壺に嵌りたくない意地や矜持をもっているからかもしれない。
 ジッロも、それらを尻目に、気合をいれるように吼えた。
「さあてと、一攫千金を狙いますか」
「ちょっとやめといた方がいいって。その賭け分を、かわい子ちゃんとのデートに回そうよ。どうせ勝てっこないって」
 マイキーは少し不服そうにしている。
「僕、予感がします。きっと勝てます」
「おいおい、キャム。その自信は一体どこからくるんだよ」
「バカ、マイキー! こういうのはやる気で運が向いて来るんだよ。もっと俺達に協力しろよ。お前さ、そんなに飢えてるのか」
「はいはい、飢えてますよ。あんなかわい子ちゃんが一杯なんだもん。それもお金さえ払ったら相手してくれるんだぜ。そりゃ、男として疼くわ」
「外見だけで判断してさ、しかもお金で簡単に手っ取り早い欲求が買えるって、それってなんか虚しくないか」
「ジッロは堅物すぎるんだよ。もっとお気楽でいいじゃん。どうせ遊びなんだから」
「あーあ、こういう奴って、本気で恋すると執着深くてマジやばい男になるんだよね。せいぜい恋の深みに嵌るなよ」
「おいおい、ジッロも本気で恋したら暴走するタイプだと思うぜ。そういう奴ほど、コロッと惚れやすく、一心不乱に無茶なことするんだって。変なのに惚れるなよ」
 二人はお互いの意見をぶつけ合いながら、どっちも引けをとらなかった。
 複雑な男心を目の前にしてキャムは困惑していた。
「あの、クレートはどうなんでしょう?」
 二人の話を聞いていると、ふとクレートの事も気になってしまった。
 一番真面目で、リーダーとしての器が大きいだけに、どういう恋をするのだろうとキャムの好奇心がうずく。
「クレート? あいつは恋するとかそういうタイプじゃないよな。煩悩を押し殺せる、意志の強い奴だから、女性なんてどうでもいいんじゃないかな。あんまりパッとイメージわかないぜ」
「そうだよな。生真面目でストイックな奴だから、女の子に心許すとかしなさそう。どっちかっていうと、権力もった強い男が好みって感じかも」
「おい、マイキーそれって、アレかよ」
「そういうのもアリじゃないかな」
 キャムは「えっ?」とびっくりしつつ、ジッロとマイキーをじろじろとみていた。
「なんてね。それだけ、全く読めない男ってことだからね。まさか本当にそうってことじゃないからね。もしそうだったら、俺たちヤバイじゃん。あんな狭い空間でいつも一緒でさ、クレートに狙われてたらたまんないよ」
「アホか、マイキー。冗談でもいい加減なこというな。キャムがびっくりしてるだろうが」
「ごめんごめん、キャムも狙われるかもって思っちゃった? 大丈夫大丈夫。クレートは子供や未成年は襲わないと思うよ」
「そういう問題と違うだろうが!」
 ジッロは一発マイキーの頭をどついた。
「キャム、マイキーのいつものおふざけだ。気にするな。こいつは調子に乗るとバカなことばっかりいうから」
 キャムは気にしてないとばかりに、首を横に振っていたが、これが男同士の会話なのだろうかと、また一つ新たな試練を乗り越えるように、体に力を入れて踏ん張っていた。
「いてーな、もうジッロはすぐに手がでるんだから」
 頭に触れながら、マイキーは不服そうにしているがあまり懲りてない。
 能天気さながら、すぐにキャムに話を振った。
「ところで、キャムはどういうタイプの女の子が好みなの?」 
「えっ、そ、それは、ぼ、僕はそういうのは」
「何恥ずかしがってるんだよ。もっと俺みたいに素直になっちゃいなよ。本当は年上のお姉さんが好みじゃないの。子供の時って年上に憧れるからね」
「いい加減にしろ。キャムが困ってるだろ。キャムはまだ俺達に遠慮してるところがあるんだから、あまり直球を投げてやるな」
 ジッロはキャムを庇うが、キャムは男のフリをしようと少し無理をした。
「ぼ、僕はその、落ち着いて、時々そっけなくても、ふと見せる笑顔が素敵な人が好きです」
 頭の中ではクレートの顔が浮かんでいる。
「へぇ、やっぱり年上のお姉さまって感じだね。しかもつれない態度を取りつつ、二人っきりになったら世話焼いてくれる感じかな。いいじゃん。ほら、キャムだってやっぱりどこかで欲望もってるってことだ。だからジッロもかっこつけて意地張るなよ」
「だけどさ、キャムもいつかは成長して男になるんだろうな。なんか想像し辛いぜ。お前はこのままずっとかわいいタイプって感じだから。しかしお前って、どうも色白で中性的だよな」
 ジッロにまじまじ見られ、キャムは居心地を悪いものを感じていた。
「やっぱり、子供っていいたいんでしょ。ほっといて下さい。とにかく早くカジノいきましょう」
 怒ったフリの中、二人を置いて行く勢いで、キャムは闊歩し出した。
 できるだけ蟹股を装い、できるだけ肩をいからせ、できるだけ女という部分を隠したかった。
 ジッロとマイキーはキャムの背後で、お互いの顔を見合わせ呆れた笑いを見せた。
「キャム、怒んなよ。わりいわりい」
 ジッロが走って後をつけ、マイキーもクスクスと笑いながら駆けつける。
 どちらかの手がまたキャムの頭を撫ぜつけた。
 ふくれっ面を見せながらも、キャムは内心、女であることにばれたんじゃないかと気が気でなかった。
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