第四章
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「キャムの奴、一体どこ行きやがった。勝手な行動しやがって」
「紐でもつけとけばよかったんだよ。キャムのせいで、かわい子ちゃんとのデートが台無しになっちゃうじゃないか」
「まだ、言ってるのか、マイキー。いい加減に諦めろ。クレートにばれたら大変だぞ」
「別にばれたっていいじゃないか。クレートだって男だし、俺の気持ち分かってくれるはずだ。あんな宇宙空間でプロジェクトのために俺たち青春無駄にしてんじゃないか。これくらいの楽しみあったってバチあたらないと思うんだけど」
「そりゃ、俺も女は欲しいとか思うけど、でもそれは自分が本気で惚れたいとかそういう思いがあるわけで、お金で処理とかは虚しくないか?」
「ジッロの言いたいことは分からないでもないよ。だけどさ、俺の場合、気持ちと下半身は別もん。やっぱ性欲が前にでちゃうわ」
「でもさ、結局はマイキーは恋してないだけだから、ドライでそっち言っちゃうんだろう。もし本気で惚れたら絶対手を出し難いもんだぜ」
「そんなの、その時になってみなければ分からないことさ。とにかく早くキャムを見つけて、デートの相手見つけに行こうぜ。ジッロも拘らずに、ここは経験値を上げると思って試してみたら?」
「なんかそういう気分じゃないんだよな」
「だから、どうしてそうなんのよ。同じ男なのに、ジッロの気持ちがよくわからないよ。それとも誰か気になる奴でもいるのか?」
「気になる奴? 俺たちそういうほど女に出会ったことあったか?」
「会ってたら、こんな思いしてないわな」
マイキーはあっさりそう言い切るが、気になる奴と口をついて出たとき、どこかジッロの頭では何かがもやもやする。
自分でも分からず、呆けるようにその場でじっと考えこんでいると、前から何かが走ってきてドンと思いっきりぶつかるようにくっついた。
ジッロがびっくりして確認したとき、そこにはキャムが抱きついていた。
「キャム!」
ジッロとマイキーの声が響く。
「ちょっと、どこに行ってたのさ。俺たち、心配してたんだから。まあ、戻ってきたからよかよか」
マイキーはキャムが戻ってきたことで、ほっとしていた。
ジッロも肩の荷が下りてはいたが、キャムが抱きついたまま震えていることが不思議でならない。
「おい、キャム、どうしたんだ。なんかあったのか」
「ぼ、僕、ああ、どうしよう」
顔を上げると目が潤んで、今にも泣きそうになっているキャムの表情にジッロはドキッとしてしまった。
「お前、とにかく、離れろ。俺は男に抱きつかれる趣味はない」
「あっ、ごめんなさい。あまりにも怖かったのでつい何かにしがみつきたくなってしまいました。その時ジッロの姿が見えたから、つい」
かなり動揺していた。
「とにかく、どっしたの? お兄さん達に分かるように話しなさい」
マイキーはキャムと同じ目線に腰を落とした。
「あの、その、上手くいえないんですけど、おじさんに、その、言い寄られて、逃げてきました」
「えっ? 言い寄られた?」
マイキとジッロは顔を見合わせた。
そしてまた、前方から慌しく走ってくる男が現れて、キャムが慄いてジッロの後に隠れた。
「おい、もしかして、あのおっさんか」
「ジッロ、マイキー、もうここを出ましょう。僕、なんだか怖いです」
キャムは耐えられずに、また走って行く。
また見失っては困ると、マイキーは焦って追いかけた。
「おい、ちょっと、そこの君、待ちなさい」
男が近づいてくる。
「おい、キャム、一体何をしでかしたんだよ。もう」
ジッロは参ったとばかりに、その場から逃げるように去っていった。
男はぜいぜいと息を上げて、追いつけなかった事を悔やみ、そして周りに居た自分の連れ添いに何かを命令していた。
カジノを出て、闇雲に街の中を三人は走り、やっとのことで立ち止まって息を切らしていた。
「キャム!」
ジッロは雷を落すかのように怒鳴った。
「一体、何をしでかしたんだ。あの追いかけていた男は誰なんだ」
「僕知りません。ただ、そのお金を貰って、その遊びを強要されて」
「えっ、それってあのおっさん、もしかして少年専門なのか?」
マイキーがびっくりしていた。
その側で、ジッロもなぜかドキッとしてしまった。
「で、お前、何もされてないよな」
怒っていたジッロの態度が軟化して、心配しだした。
「えっ、それは何もないです。ただ、そのおじさんのお金でルーレットしたら、僕、その…… ジャックポット当てちゃって」
「おい? 一体何の話してんだ?」
キャムはおじさんと出会ったときの話を説明した。
でも不思議な声がしたことは言わなかった。
「それって、あのおっさんの変わりに賭けをやったってことで、そんで見事に当ててしまったということか」
「はい。そうです。それでおじさんは僕にお礼をしたいとか言ったんですけど、そんなの要らないからっていっても、しつこかったからそれで逃げてきたんです。だってあの金額みたら、もう怖くて」
「一体いくら当てちゃったの?」
マイキーが聞いた。
「そ、それがとてつもなくすごい金額で、一生遊んで暮らせるんじゃないかというくらいです。僕には大きすぎて感覚がわかりません」
「おいおい、なんでそんなとこで勝手に運を使っちまうんだ。俺たちが一緒だったら、くそ」
ジッロは悔しくなってきた。
「でも、僕、その、もういいです。あんなに巨額になったら、却って怖いです。上から隕石落ちてくるんじゃないかって思ったくらいでした」
目を丸くして、手を大いにふって説明するキャムの姿をみていると、ジッロはなんだか力が抜けてくるようだった。
「キャム、お前はどうも欲というものがないんだな」
滑稽なこの出来事に最後は笑わずにはいられなかった。
マイキーもそれにつられて、キャムの頭を撫ぜてやった。
「すごいな、キャム。いい子だ。さあ、これからはお兄さん達が、キャムにもっといい事を教えてあげるからね」
「もっといい事?」
キャムが首を傾げると、ジッロがマイキーの頭をこついていた。
「マイキー、そんなに行きたければ、一人で行って来い。俺たちは待っててやるよ」
「そんな、俺一人だけだったら、ばれたとき俺だけがクレートに怒られちゃうじゃないか。そんなのずるい」
「おいおい、俺はクレートに怒られたくなんかねぇーよ」
「あの、一体何の話をしてるんですか?」
ジッロは、ため息を一つついてからキャムの耳元に顔を近づけ小声で説明した。
キャムの顔は一気に真っ赤になり、湯気が出そうになっていた。