第五章
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外ではすでにスーツ姿のクレート達が雑談をして待っていた。
キャムとクローバーが船から下りてくると、三人は視線を一斉にキャムに向けた。
いつもは宇宙スーツ姿で見慣れてるために、三人がぴしっとスーツを着て立っている姿は、モデル雑誌の表紙を飾りそうにかっこいい。
自分の派手なチェックのスーツが道化師のように思えて、なんだか恥ずかしくなってきた。
「皆さん、とても素敵です」
キャムの瞳がクレートを捉えたとき、特にドキドキしてしまい、自然と表情がはにかんでいた。
「なんだか僕だけ浮いちゃってるみたいです」
俯き加減で自信がないキャムの姿は、ジッロとマイキーから見れば、また違ったものに映っていた。
「何言ってんだよ。自信を持て。キャムはそういう派手な格好の方が似合ってるって」
といいつつ、ジッロは守ってあげたいか弱さで擁護するも、言い切った後、自分の感じる部分に自信がもてない。
「そうそう、俺たちが地味な分、キャムが派手でなくっちゃ」
マイキーもあどけない素直な部分に萌えを感じつつも、どこかでこれでいいのかと葛藤がはいり、いつも以上に笑っては誤魔化していた。
クレートは特に何もいわなかったが、口元を上げて微笑んでいるだけでキャムには充分心が満たされた。
「クローバーもなかなかいい女になってるぜ」
「ああ、これなら街へ出かけてもアクアロイドとはすぐに見分けられないね」
「私もなんだか変な気分です。これで癖になってしまいそうです」
クローバーの冗談に皆笑っていた。
「さあ、記念撮影と行くか。皆こっちに立ってくれ」
クレートが船の先頭部分を指差す。
ぞろぞろと言われた場所へと歩き、そこでふと立ち止まれば、キャムはすぐに反応して目を丸くして驚いた。
「これは、四葉のクローバーのロゴ」
「そうだ、この船のシンボルマークとして、昨日準備した」
「これクレートが自分で描いたんですよ。昨日街へ行かなかったのは、これを描くためだったんです。私もお手伝いしましたけど」
キャムが喜んでいる姿を見ては、クローバーは無表情であっても心の中は満足度一杯に嬉しい。
またクレートが控えめに笑みをこぼしている表情も、恥ずかしさと喜びが入り混じった自然な表情なのが読み取れた。
この四つ葉のクローバーに込められた意味は、クレートがはっきり意思表示しなくとも、クローバーにはよく理解できていた。
船の先頭部分の横に描かれたロゴは、緑のハートの葉っぱが四つ集まって、四葉のクローバーになっている。
「形が均等じゃないのは、愛嬌だと思ってもらえるといいのだが」
少し謙遜が入ったクレートは、咳払いするかのように恥ずかしさを誤魔化した。
「クレートがキャムのためにこんなことするなんて思わなかったぜ。なかなかいいじゃないか」
ジッロはクレートの腕にパンチを軽くお見舞いしていた。
自分がしてやれなかった悔しさが少し混じりながら、処理できない思いに八つ当たる感じだった。
「あらま、この船までなんだかキャムに染まっちまったって感じだな」
マイキーは自分の気持ちと掛けて、持って行きようのない感情にヤケクソ気味だった。
キャムは自分の意見をこうも簡単に受け入れてくれたことに感動して目がウルウルしていた。
シャツの下から四葉のクローバーのペンダントを取り出して、それをクレートの前で掲げて感謝の気持ちを表す。
「これで本当にいいんですか」
「何かの特徴があれば、他の輸送船との違いが明確だし、それにこれをシンボルにすれば目立つ要素にもなる。ロゴがあった方が断然これからの仕事にも宣伝的に有利に働くことだろう」
クレートにしても、あの時シロがもたらせた四つ葉のクローバーとの不思議なめぐり合わせと、ラッキーシンボルとしての見えない力を信じてみたいという気持ちもあった。
これもまた何かの導きのような気もして、クレート自身、自分の気持ちに変化を生じさせたきっかけでもあるので、体が勝手に動いたようなものだった。
ネオアースから来たクローバーは必ず何かの行動をする。
その時、カザキ博士に育てられたキャムが重要な役割を果たすに違いない。
そう思えば、偶然に見つけた四葉のクローバーも関連性を帯びてくるような気がした。
今ある現状を少し変化させるだけで、ネオアースに近づける可能性が少しでも高くなるのなら、どんな些細なことでもなんでもやってみることだ。
例え、色んな理由が複雑に絡んで、このような結果になっても、キャムの素直に喜んでいる顔を見ると、クレートは何が一番の理由だったのか分からなくなってくる。
結局のところ、色々あった理由は全て後回しで、キャムが提案したことで素直にその案が気に入っただけではないだろうか。
クレートも自分らしくない曖昧な感情に少し戸惑いながら、レンズを通して自分が描いたロゴとキャムを見ていた。
宙を飛び回るカメラでアングルをセットし、手ぶりしながら皆に集合しろと合図を送る。
キャムはジッロとマイキーに挟まれて立ち、その後でクローバーが顔を出して、クレートもそこに加わった。
「さあ、撮るぞ。みんないい顔するんだ」
「ラジャ」
クレートの手元のリモコンが押されるとシャッター音が聞こえた。
それを何度か繰り返し、記念すべきこの日は切り取られて思い出となった。
キャムは写真の中だけは女の子として写っていたいと願っていた。