第五章
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スタッフらしき人物を見つけると、クレートは片っ端からキャムの事を質問する。
首を傾げるものが続く中、やっとキャムの事を知っているという男に出会った。
「ああ、あのストリートチルドレンですね。嘘をついて入り込もうとしてたので、警察に引き渡しました」
「なんていう事をしてくれたんだ。あの子は正式にジュドーから招待を受けたんだぞ!」
冷静なクレートが我を忘れて怒りを露にした。
「しかしですね、他にも同じような子供達がここへ入り込もうとしてましたし、そのような話は聞いていませんでしたから……」
自分に落ち度はないと主張していたが、側にいた他のものがこそこそと耳打ちした。
「そんな、まさか」
その男の顔は真っ青になっていた。
ジュドーといえば、アイシャの伯父という事、そして月では有名な事業家でこの男でも基本的な情報は心得ているようだった。
「あの、す、すみません。私の耳にはその情報はまだ入ってなくて、それはほんとに知らなかったことですから」
「謝罪などどうでもいい。とにかく警察に連絡してくれ。今すぐにだ」
クレートの気迫に恐ろしいものを感じ、男はすぐに連絡をする。
だが、警察からはストリートチルドレンを捕まえたという報告がないとすぐ回答が返って来た。
それを真っ青な顔でクレートに伝える。
「一体どうなっているんだ。貴様はちゃんと警察に渡したのか!」
「いえ、その警備員に全てを任せてますので、私は一々確認はしておりません」
「それじゃキャムは一体誰に連れて行かれたというのだ」
クレートの怒りは頂点に達していた。
キャムは、送り主となったあの男とネゴット社の関係を聞きたいがために、しつこくロビンに質問していた。
「君もしつこいな。君には関係ないことなのに。俺たちも、あまり公にしたくないんだ。ネゴット社はこのコロニーでは一番の権力者だろ。そんな地位を持った
人が、俺たちみたいなストリートチルドレンの世話をしているなんて噂が立ったら、困るんだよ。だって、俺たちこの街ではゴミ扱いだし、生きて行くためには
悪いことも平気でしちゃうからね。そんなのを支援するなんておかしいだろ。だからネゴット社は隠れて黙ってやってくれてるって訳。だから俺たちはそういう
ことは人前では言わないんだ」
「あたいのお父さんはねネゴット社の社長と知り合いみたいなんだ。お父さんはあんまりその話はしたがらないけど」
「この街はかなり自由なところがあるからさ、俺たちみたいな子供もなんとか掻い潜って生きていけるんだ。ネゴット社という盾があるから、多少は目を瞑ってもらえるんだ」
「お父さんもあたい達を守るためにきっと嫌な仕事をしてるんだと思う」
「嫌な仕事」
まさにキャムが知りたいことだった。
「俺が思うに、どこかで取引してるんだと思う。その仕事を請け負う代わりに、子供には何一つ口出しするなって。そうじゃなかったら、俺たちなんてとっくにここからつまみ出されて売り飛ばされてるはずだから」
「この宇宙では弱いものは絶対に生きていけない。強いものの餌食になるから。あたいなんてまさに弱いものだし」
「売り飛ばされて奴隷として働かされるのはまだましさ。それよりも怖いのは臓器移植の提供者とか人体実験とかそういうのにされるときだね」
「うそ、そんなひどいこと」
「君は見たところ、まだ何にも知らなさそうだね。余程、ぬくぬくと守られて育ってきた世間知らずみたいだ。君のその服もかなりアホっぽいしさ」
キャムは自分の服を見つめた。
目の前の子供達よりは、見ようによっては金持ちのボンボンにみえるかもしれない。
自分でもこの服は派手で、気恥ずかしいのに、人から言われることほど堪えるものはなかった。
そのうちに、車が停止し、ゆっくり地面に降り立つのがわかった。
そしてドアが開いて、意地悪そうな狐顔の男が降りろと言った。
ロビンが先頭になってカナリーを気遣いながら降りていく。
キャムもその後に続いて降りた。
そこはスペースポートの外れで、人があまり来ない寂れた場所だった。
目の前にはゴミやダンボール箱といったものが積み上げられている。
ゴミ置き場とすぐにわかる場所だった。
その向こう側は建物に紛れて、宇宙船がいくつか停泊している姿が見えた。
あれに乗せられて運ばれていくのだろうか。
キャムは周りをキョロキョロと見ていた。
「本日の収穫です」
人相の悪い狐顔の男がキャム達を、そこで待っていた男の前に差し出す。
喜んでもらえるとばかりに、儲けを期待してへつらっていた。
「三人か」
子供達を差し出されて、その男は商品の価値を吟味するように眺めていた。
「おい、首を見せろ!」
荒っぽい命令をされた時、男の口から醜い乱杭歯が露出する。
見ていて不快になるくらいの汚い歯並びに、キャムは嫌悪感を抱いて首をすくめた。
乱杭歯男が、掌にすっぽりと嵌るくらいの四角い機械を持ち出して、それをロビンの後首に掲げた。
ピーっと言うスキャンされた音がなり、その機械からは赤い光がどこからか漏れていた。
「コイツは契約者じゃないか」
次にカナリーにも機械を向けると、同じ結果が返ってきた。
「コイツも契約者か。仕方がない。昨日そういえば、ブツが届いたと連絡があった。まあ、こいつらも金づるの元だ」
乱杭歯は投げやりに狐目の男に何かの合図をすると、ロビンとカナリーの手錠は外された。
二人は安心してお互い顔を合わせて微笑んでいた。
しかし、すぐにキャムを一瞥して同情するように哀れんだ目になっていた。
その時、キャムも首をスキャンされたが、機械音はならず、乱杭歯男の目が不気味な笑いをしていた。