第六章
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船から放たれた爆弾は海賊船に命中して、派手に爆発していた。
しかし、海賊船にとってもそれは想定内なのか、その爆発だけでは致命的なほどのダメージを与えていない。
だが、クレートの体にはとてつもない衝撃がのしかかり、小型船ごと、吹き飛ばされてしまった。
必死に、小型船に乗り込もうと手を伸ばすが、寸前のところで上手く届かない。
そうしているうちに、ダメージを受けたときにはがれた残骸がクレートめがけて流れてきた。
それにぶつかり、軌道がずれて小型船がどんどん離れて行く。
しかし慌てず、腰につけてあった補助用ブースで徐々に向きを変え少しずつ近づいていった。
やっとのことで小型船に乗り込む事ができたが、まだ安心はしてられなかった。
すぐに小型船を操縦し、少しでも遠くに離れた。
海賊船は、爆発で多少のダメージは受けたようだが、まだしつこく船を追っている。
そこにはも怒りと恨みが入り混じった仕返しを原動力として動いているように見えた。
すぐに落ちなかった獲物にそうとう腹を立てている。
そしてクレートは自分が仕掛けた爆弾のスイッチを入れた。
ものの見事にそれは爆発し、狙い通りのダメージを与えることに成功した。
やっと肩の荷が下りたと、安心したとき、オフにしていた通信システムをオンに戻した。
「おい、今、海賊船の後部からも爆発が起こったぞ」
ジッロが指摘する。
「クレートの仕掛けた爆弾だろうが、一体クレートは無事なのか」
マイキーの力ない声がキャムを一層不安にさせていた。
そのとき、通信が入った。
「こちらクレート、そっちは無事か」
誰もが歓喜して彼の名前を呼んだ。
「おい、クレート、脅かすなよ。なんで通信切ってんだよ。趣味悪い演出だぜ」
「そうだよ。おかげで寿命が縮んだ思いだよ」
「すまない。少し集中したかっただけだ。こっちはそれでなんとか成功した。どうやら海賊船の動きが鈍くなってるようだ」
「今から回収に向かうから、もう少しそこで大人しく待っておいてくれよ」
「ほら、キャムもなんか嫌味の一つくらい言っとく方がいいぜ。今なら何言っても許されるからさ」
ジッロに後押しされても、ただ首を横に振るだけでキャムは何もいえなかった。
「キャムの奴、心配しすぎて魂抜けちまってるぜ。クレートのせいでかなりのストレス受けたみたいだ」
「そうか、すまなかった」
「おいおい、たったそれだけかよ」
「ジッロ、もういいじゃないか。クレートが無事だったことが全てさ。さあてと、そしたら、今からキャプテンの回収に向かいまーす」
いつもの調子のマイキーだった。
「待って下さい。ここから6時の方向、複数で何かが近づいてきます。あれはスペースウルフ艦隊のパトロール部隊です」
クローバーが機敏にパネルを操作して状況を把握しようとしていた。
「くそっ、なんでこんなときに」
ジッロもマイキーも悪態をついていた。
「かなりの数です。戦闘部隊も居るようです」
「マイキー、海賊船から離れるんだ。すぐ軌道を変えろ」
「何言ってんだよ。クレートはどうするんだ。その小型船じゃ、すぐ追いつかれてしまうぜ」
「キャムとクローバーを守るためだ。あいつらの目的は、コロニーの爆発に関した情報を集めている。詳しい目的が分かるまでは、キャムとクローバーの存在を隠すしかない。早くいけ。キャプテン命令だ」
マイキーは躊躇するも、キャムを守るためと聞けば従うしかない
「ラジャ。だけど、クレートはどうするんだ」
「一度、通信して面識がある分、私は大丈夫だ。さあ早く行け」
「僕のことなんてどうでもいい。早くクレートを助けて」
キャムは取り乱していた。
クローバーがしっかりと体をささえ、マイキーに合図する。
船は進行方向を変え、海賊船から離れて行く。
先ほどの助けた船も疾うに姿を消していた。
それに気がついたとき、ジッロもマイキーも助けた事を後悔する気持ちになっていた。
スペースウルフ艦隊のパトロール部隊と戦闘部隊は海賊船を包囲して敵意をむき出しにしていた。
停止した海賊船からは爆発によって生じた煙があちこちから立ち昇り、大人しくしているところを見るとあっさりとスペースウルフ艦隊に白旗を揚げている様子に見える。
クレートも悠長にその光景を見ている暇はなかった。
すでに包囲されて攻撃の銃口が自分の方に向けられているからだった。
とんだときにここに居合わせてしまったと思いながら大人しく両手を挙げていた。