第六章


 キャムに再び声を掛けようか、ジッロは迷っていた。
 キャムが一人で射撃ルームに入って行ったところをみると、それで気持ちを発散させるつもりなのが読めた。
 そっとするのも一つの方法だと思うと、キャムの好きにさせておいた。
 ジッロは操縦室に向かい、マイキーとクローバーにこの事を伝えておいた。
 さすがのマイキーも、表情が強張るくらいにショックを受け、クローバーはただ沈黙して言葉を失っていた。
「なんてこったい。ここんとこ、キャムにとって最悪なことばかり続いてるじゃないか。ただでさえ、家族や家を失って悲しみが癒えてないというのに、立て続けに試練ばかり起こってしまうなんて、可哀想すぎるよ」
「そうだよな。純粋なだけに、ショックは計り知れないことだろう」
「でも、時にはそんな試練も必要なのです。キャムはきっと乗り越えられます」
「おい、クローバーがそんな風に言うなんて意外じゃないか。必要な試練って、苦労する事を望んでるみたいな言い方だぜ」
 ジッロが言った。
「そういう訳ではないのですが、人はいろんな事を見て聞いて体験してこそ成長していくものでしょ。だったら肯定的に捉える方がいいと思ったんです。それが悲しみや辛いことでも、きっといつか何かの役に立つ。私はそう信じています」
「クローバーちゃん、なんか、母親みたいよ」
 マイキーは笑って突っ込んでいた。
「そうですね。母親の代わりになれるのなら、そうしてあげたいものです」
「そしたら父親役としてクレートが一番適任者だな」
「マイキー、なんか話飛んでないか?」
「いや、キャムには今、温かい家族が必要だって言ってるの」
「じゃあ、俺たちはなんだよ」
 ジッロの質問で、一瞬マイキーの言葉が詰まった。
 本来なら兄と喩えるのが一番の答えなのだろうが、それよりももっと特別な位置づけが欲しいと考えてしまった。
 ──恋人。
 しかし、その言葉が出たとき、自分もキャムも男だと言うことに気が付いて、はっとしてしまう。
「そ、そりゃ、もちろんアレだよ、アレ」
「何慌ててんだよ」
「いや、別に…… さてと、ちょっとトイレ行って来るわ」
 誤魔化すようにその場を去ってしまった。
 マイキーは自分でも訳が分からなくなって、ひっきりなしに頭を掻きむしっていた。
 
 射撃ルームの前を通れば、銃の撃つ音が激しく聞こえる。
 撃ってるのがキャムだと思い、マイキーはドアを開けて入っていった。
「よっ、キャム。精が出るね」
 できるだけ普段どおりに接したつもりだったが、キャムが振り返ったとき、目を真っ赤にして泣いている姿を見ると、心が痛んだ。
「キャム、こっちこいよ」
 キャムは状況が飲み込めずにマイキーをただ見つめていた。
 もどかしいと、マイキーは真顔になってキャムに近づき、そしてぐっと抱きしめた。
 マイキーの腕の中に突然押し込められ、キャムはされるがままに抱かれていた。
「話は聞いた。俺もキャムと同じようにショックを受けたよ」
「マイキー……」
「ここんとこ辛いことばかり起こってるけどさ、負けんなよ。またいつかかわいい笑顔を俺に見せてくれ」
 キャムは目を瞑って聞いていた。
 マイキーの優しさがダイレクトに伝わってくる。
「ありがとう。マイキーに、こんな風に慰められるなんて思わなかったです」
「俺だって、キャムのことしっかりと考えてるんだぜ。キャムがここに来てくれたお陰でものすごく楽しくなったくらいだ。ただ……」
 その先の言葉にマイキーは詰まってしまった。
「ただ、どうしたんですか? なんか僕やっぱり迷惑掛けてるんでしょうか」
「違う、違う、そんなこと思ったこともない。ただキャムがその……」
 その先はキャムが男であることに抵抗があって、素直に好きだと言えない気持ちが辛いと言いたかった。
「その、あれだ、キャムが悲しい顔をしているのが辛いだけさ」
「あっ、はい。ごめんなさい」
「そこは謝るところじゃないって。とにかくいつもの元気なキャムになって欲しいのさ」
 マイキーはここぞとばかりに本能にそって強く抱きしめた。
「マイキー、あの、ちょっと苦しいです」
「えっ、あっ、ごめんごめん。なんか俺も一生懸命になりすぎてしまった」
 マイキーはキャムを解放して、苦笑いになっていた。
 でもキャムはもうそれで充分だった。
「僕、知らない事が多すぎるんです。だからちょっとした事にでも挫けやすくって、こんなんじゃだめですよね。もっと強くならないと」
 マイキーも銃を手に取り、的を定めていた。
「いや、キャムは充分強いさ。そうやってどうすべきか気がついてるじゃないか。俺なんかずっとヘタレなままだぜ」
 指が引き金を引き、少しずれたがなかなかいい線のところを撃っていた。
「うわ、マイキーも中々の腕前なんですね」
「そうだな、一応は訓練受けてきたしな。まあ、ジッロには適わないけどね。アイツの腕前を越えるものは中々いないんじゃないかな」
 またもう一発撃っていた。
「でもマイキーは宇宙船の操縦が上手いですよね」
「皆それぞれ得意な事があるってことだ。クレートは頭脳明晰だしな」
「僕はこれといって得意な事ってないです」
「そうかな、キャムの得意な事って勘が働くってことじゃないかな。カジノでジャックポット当てたんだろ。それに色々と何かを感じることも能力だと思うよ」
 キャムは考えていた。
 それが自分の能力とまだ言い切るには頼りないものを感じてしまう。
 しかし、カジノの中で何かに呼ばれたとき、鋭い直感を得た事を思い出し、それが何を意味しているのかこの時になって不思議に思い始めていた。
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