第六章


 マイキーはキャムに付き合うように、暫く射撃をしていた。
 二人っきりで一緒に居たいという気持ちもあった。
 その時、ドアが開く音が聞こえ二人が振り返ると、そこにはジッロが驚いた顔をして立っていた。
「なんで、マイキーがキャムに射撃を教えてるんだよ」
 唯一キャムと二人っきりで堂々とできる事柄だけに、ジッロの心には嫉妬が起こって憤慨していた。
「教えてたわけじゃないって。俺も発散してただけさ」
「マイキーは僕の事心配して、付き合ってくれただけなんです。お陰でとても気分がよくなりました」
 ジッロはキャムを一人にする選択をしてしまった事を後悔した。
 マイキーに先を越された悔しさがあった。
「どうした、ジッロ、なんか怒ってるみたいだぜ」
「怒ってねぇーよ。それより、さっさとここを飛ぶ準備しろ。クレートの命令だ」
「オッケー」
 マイキーは銃をジッロに向かって放り投げた。
「粗末にすんな、このバカ」
 笑いながら走って行くマイキーの背中に銃を構えるフリをしていた。
「ジッロ、さっきは一人になりたいなんて言ってごめんなさい」
「えっ、ああ、あの時のことか。そんなこと気にしてねぇよ。俺も後で知ってショックを受けたから、気持ちは分かるよ。キャムは大丈夫なのか」
 銃を元の位置に戻しながら、あの時無理にキャムの側について行くんだったと後悔していた。
「はい。でもまだちょっと引きずってますけど、だけどマイキーにハグされてなんか楽になりました」
「ハグ…… あっ、その、男同士でか?」
「あっ、そういうつもりじゃ、あの、その、なんていうか、一人で突っ張って立ってるより、誰かが支えてくれると踏ん張らなくてもいいんだってそんな気持ちになったってことです」
 ジッロはさっきから心にモヤモヤを抱えてるせいで、つい体が勝手に動いていた。
 キャムをぎゅっと抱きしめた。
「ジッロ?」
「それじゃ俺もだ」
 キャムはやはり体が華奢で、か弱い。
「ありがとう、ジッロ」
 二人から温かいハグをされたことで、キャムは支援を感じていたが、まさかジッロもマイキーも自分に夢中で、男と思ってるキャムを思う気持ちに葛藤しながら、好きと言えずに悩んでいるなんて微塵も考えられなかった。
 キャム自身、男のフリをしていても、やはり心は女なので、こうやってジッロとマイキーに優しく抱擁されるのは気持ちが安らぎ、そうされる事が変だとは一切感じていないだけに、ハグをされるときは素直に受け入れてしまう。
 それが益々ジッロとマイキーの気持ちを助長してるとも知らずに。
「キャムは、俺とマイキーどっちが好きだ?」
「えっ、どっちって、そんな決められません。二人とも大好きですから。どうしたんですか? そんなこと急に聞いて」
 ジッロはキャムを腕の中から解き放した。
「なんかさ、どっちがキャムに好かれてるんだろうと思ってさ。俺なんてすぐ手が出て怒ったりするだろ。マイキーはいつでも物腰柔らかだからな」
「どっちもそれぞれの特徴があるからいいんです。僕は飾らずに素のままに接してくれるだけで有難いって思ってます。ジッロ、なんか変ですよ」
「俺も、変だとは自覚してんだけどな。なんか最近訳がわかんなくなってさ。さてと、離陸の準備すっか」
 ジッロは部屋から出て行く。
 キャムは首を傾げながらついていった。
 操縦室に入れば、マイキはパネルのスイッチを入れ、ポートの指示に注意深く耳を傾けていた。
「ジッロ、キャム、遅いぞ」
 クレートが指令台から厳しい目つきをしていた。
 ジッロは「すまなかった」と、いつもの調子で軽く謝って自分の席につき、キャムも「申し訳ございません」と丁寧に謝ってから着席したが、クレートと顔を合わせられなかった。
 クレートは口元を引き締め、離陸前の最終チェックを行う。
 準備が全て整ったところで、マイキーにゴーサインを出した。
 船はゆっくり上昇し、周りの建物に気をつけながら、進んで行く。
 再び宇宙に出たとき、キャムはどんどん小さくなって行くコロニーをモニターを通じて見つめていた。
 全ては終わってしまった。
 どこかで折り合いをつけて割り切って行くしかない。
 だが、ただ今だけはチッキィの事を思い、祈ってあげたかった。
 掌の中にはあの鳥笛がしっかりと握り締められていた。
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