第六章


 クレートが乗り込んだ小型船内の映像がつながり、モニターに映りこんだ。
 ヘルメットを装着し、バイザー部分の目だけが見える。
 クレートもどこか緊張して、いつも以上の強張った目つきをして気を引き締めていた。
 キャムの息が荒くなる。
「いいか、万が一、船が危なくなったら逃げろ。私の事は気にするな」
「バカ、何言ってんだよ。見捨てられる訳がねぇーだろうが」
「落ち着けジッロ。私は万が一の事を言ってるだけに過ぎない。そんなことは起こらないと思ってる。それに私は逃げおおせる自信がある」
「そうだよな。クレートが失敗する訳がないって。このマイキー様の活躍に期待してくれ」
「マイキー、船の注意を引いたら、不規則に運航し、そして隙をついて後に回りこんでくれ。そのとき私は飛び出す。そしてすぐに離れろ」
「ラジャ」
 小さな船だけに、海賊船は油断する。
 そのとき、さらに小型船で無謀に近づいてくるなどとは思ってもいない。
 それがクレートの戦略だった。
 そこでダメージを与えるくらいの爆弾を仕掛ける。
 その後は自分ができるだけ離れて逃げるだけだった。
 キャムは何もこんなことをして危険を冒さなくてもと、困っている人を見捨ててもいい気持ちになってしまう。
 もしクレートに何かあったらと思うと、心配で胸が張り裂けそうだった。
「キャム、クレートを信じましょう。しっかりしなさい」
 控えめなクローバーが、叱咤激励を飛ばす。
 目が覚めるようにキャムは、気持ちを持ち直した。
 ──どうかクレートをお守り下さい。
 キャムはずっと強く念じていた。
 襲われていた船は、ダメージを受けながらもかろうじて、その後の攻撃をかわしていた。
「あの追いかけられてる船の操縦も中々なもんじゃん」
 マイキーは自分の勘を頼りに、操縦桿を握りなおして向かって行く。
 ジッロは戦闘態勢をとりながらも、クレートの命令通りにむやみに攻撃は仕掛けることなく、冷静に敵の攻撃能力をチェックする。
 いざというとき、どこが一番ダメージを受けやすいか、それを分析していた。
「キャム、あの海賊船に近い型をデーターから出してくれ」
 ジッロに言われて、慌てて海賊船の画像をキャプチャーし、データーに照らし合わせる。
「でました。しかしあれはB100型と当てはまりますが、微妙に違いがあります」
「出回る前のプロトタイプを改造したものだろうな、ジッロ、気をつけろ、変な仕掛けが仕込まれてるかもしれない」
「そっくりそのまま、その言葉マイキーに返すぜ」
「ああいえば、こういうからな、こんなときでも」
「何言ってんだい。こういうときほどなんとやらだろ、マイキーがいつも言ってるアレさ」
「それをいうならおちゃらけだ。ようし、ここはマイキー様の腕の見せ所だからな、皆目を回すんじゃないぜ。行くぜ」
 マイキーの目つきが一瞬にして変わると同時に、船は一気に加速した。
 クレートの指示通りに、派手に戦火に飛び込み、アクロバット的に攻撃をかわして、追われている船の矛先を変える。
「クローバー、あの船と通信をつなげたままにして、連絡を取り合ってくれ」
 マイキーは激しく船を操縦し、洗濯機の中にいるように目まぐるしく機体を回転させる。
 上も下も分からないまま、皆こんがらがっているが、マイキーだけは美しく線を描くように把握していた。
「よし、海賊がこちらを煩く思うようになった。さてこれからが勝負だぜ、マイキー」
「ああ、分かってる。一瞬が勝負だ。ハッチを開けるタイミングはジッロに任せたぜ」
「クレート、聞いてるか。マイキーがそろそろ仕掛けるぞ。覚悟はいいな」
「ああ、いつでもOKだ」
 まるで宇宙の中でゲームを楽しむような掛け合いに、キャムだけが不安を抱いていた。
「大丈夫ですよ。キャム、きっと上手く行きます。そうイメージしてごらんなさい」
 クローバーは気休めに言ってるだけかもしれないが、いくらそう信じようとしても、大きく構えてられない。
 こんなときに楽しんで操縦できるマイキーや、落ち着いて肝を据わらせてるジッロの感覚がわからない。
 キャムはもう泣きそうになりながら、震えていた。
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