第七章


 海賊船のボスと数名の部下達、そしてクレートが手に電子手錠をかけられ、スペースウルフ艦隊の広間らしきところで銃口を一斉に向けられた兵士達に取り囲まれていた。
 海賊のボスの隣に立たされたクレートも仲間だと思われているらしい。
「お前が邪魔をして、我々の船を爆破させたのか」
 凶暴で噛み付きそうな歯を見せながら、腹立ちを隠せないでいた。
「貴様が一般の船を襲うから、その船を助けようとしたまでだ」
「それで俺の仲間だと思われて摑まってるんだからバカな奴だぜ」
 どこまでも陰険で悪びれているが、クレートにはゾンビの一件で臆病風吹かせてコロニーから逃げ帰った姿がまだ脳裏に焼きついていた。
「そこ、煩いぞ、黙れ!」
 海賊のボスもクレートも銃口を腹に突き刺され、抵抗できずに、うっと腰を屈めて喘いでいた。
 クレートはひたすら我慢する。
 そのとき、ガース隊長が靴音をコツコツとさせて威厳溢れる風格で現れた。
 囚われている男達を見るなり、眉根に変化があった。
「お前は、4-leaf-cloverデリバリーサービスのクレートじゃないのか?」
「ガース隊長。覚えて頂いて光栄です」
 その会話を聞いて海賊のボスはクレートが艦隊と知り合いだと知って顔が引き攣っていた。
「一体ここで何をしているんだ?」
「偶然、側を通りかかっただけで連行されました」
 ガースは部下に命令し、クレートの手を自由にさせた。
「すまなかった」
「いえ、誤解が解けただけで充分です」
 クレートは手錠をかけられていた両手首を労わるようにほぐしていた。
「おいおい、俺らだって、一体何をしたというんだよ。スペースウルフ艦隊にたて突いた記憶なんてないぜ」
 ガースはきーっと海賊のボスを睨みつけた。
「先日、お前らはコロニーを襲って爆破させただろうが。調べはついてるんだ」
「それがどうしてそっちと関係があることなんだ。海賊は何も俺たちだけじゃないぜ。もっと悪い奴らは一杯いる。それにスペースウルフ艦隊の邪魔など俺たちは一切していない。どちらも当たり障りのない見てみぬフリの関係じゃないか」
 この海賊達もスペースウルフ艦隊の立場をよくわきまえているようだった。
「そのコロニーは我々の艦長と深い繋がりがあった。破壊された事が侵略とみなしている」
「ちょっと待った。そんなの知るか。確かにあのコロニーを襲ったのは認めるが、破壊しようとするつもりなんてなかった。それに、あそこには死人やゾンビしか居ない墓場で、生きてるものは誰も居なかったぜ」
 間抜けなほどに恐れをなして、尻尾を巻いて逃げていった哀れな海賊達の姿が、再びクレートの目に浮かぶ。
 その姿を影で見ていたと知ったら非常に恥ずかしがることだろう。
「誰も居なかったと証明するものは居ない。よってお前達があのコロニーを破壊して住んでいた人々を皆殺しにした。その罪を償ってもらうため銃殺刑と処す」
「おい、そんないきなりな結論はやめてくれ。物事には順序というものがあるだろう。やってもいないことで、銃殺なんてされる覚えはない」
 確かにその罪状は重過ぎる。
 あのコロニーが爆発したのもたまたま動力部分が燃え上がったからに過ぎないし、この海賊が全てを破壊しようとしてたとは考え難い。
 ただ欲に目がくらんで、宝物を手に入れようとしていただけに過ぎない。
 しかしそれを誰も証明できないだけに、この海賊は無残に殺されてしまう。
 それぐらいの悪いことは今までしてきたことだろうから、これも自業自得なのだろう。
 クレートは傍観していたが、周りの海賊の部下達が泣き始めているのに気がついた。
「わかった、殺すなら俺一人にしてくれ。残りの部下は助けてやって欲しい。どうせ命令をいつも下してその通りに動いているやつらだ。こいつらには従うしか選択がない。全ての責任は私にある」
 海賊も部下を思う慈悲があるようだった。
 しかも、その組織の頂点に立つものとして責任感を持っている。
 その心情はクレートにも良く理解できた。
「ボス、そんなダメです。我々もボスと一緒に行きます。まだ何もお役にたったことのない身です。せめて最後くらいはボスと海賊らしく死にたいです」
 皆めそめそしていた。
 しんみりとした海賊のボスは心情を吐露してしまう。
「俺たちは海賊としてまだ何も手にした事がない。あのコロニーもまさか威嚇した弾がど真ん中に命中して破壊してしまうとも考えられなかった」
 その信憑性が定かではないが、この話が本当なら間抜けな奴らの何者でもない。
 しかし、クレートはあの慌てふためいて逃げた調子からありえると思えていた。
 悪びれてはいるが、どこか抜けていて、良く見ればみすぼらしさが目立つ。
 海賊船ですら、きちっと修理できずに継ぎ接ぎがあった。
 あの海賊船も古いタイプを中古として手に入れた様子が想像できた。
「あのコロニーの破壊前に、ネオアースの船を襲撃しているのはどう説明する。あそこにはアクアロイドが居たはずだが」
 ガースはすでに色々と調べ上げていた。
 その情報を手に入れられたのも、自分のあの時の話を聞いたからだとすぐにクレートは理解した。
「ああ、あの気持ち悪い変な奴か。ロボットだと思って、襲われると怖いので先手で頭を叩ききってやったよ。あの後壊れてそのままにして出てきたけど、その後はしらぬ」
 アクアロイドのことはクレートの方が良く知っていた。
 だが、それは口が裂けてもいえぬ。
 この海賊の話を聞いていると、本当に行き当たりばったりで全く計画性がない。
 これでスペースウルフ艦隊に目をつけられて始末されるのは、さすがクレートでも忍びなく思えてきた。
 だが説明をすれば、自分もあの場所に居て、キャムとクローバーの事を知らせる羽目になってしまう。
 しかし、クレートは口を挟んでしまった。
「ガース隊長、お取り込み中のところ申し訳ないが、そのコロニーとスペースウルフ艦隊との繋がりは、どういう関係だったのかお教え願えないだろうか?」
「クレートには関係のない話だ」
「もちろんその通りですが、話を聞いていると、その海賊達がコロニー内に入ったとき、死人とゾンビ以外生きてる人間が誰もいなかったと言ってる以上、ちょっと不思議に思えてならないのです。もしお知り合いを殺された報復の話ならば少し不公平かと」
「クレート、それ以上話すと、そなたも反逆罪の罪に問われるぞ。これ以上こちらのことに首を突っ込むな」
 ガースが以外にも頑固で人の話を聞かないタイプだった。
 しかも権力に任せ、脅しをかけるところを見ると、この海賊のボスよりよっぽど性質が悪い。
「大変失礼しました」
 海賊たちはがっかりとした表情をしたところをみると、クレートが口を挟んだことで一縷の望みを抱いてた様子だった。
 またそのとき、コツコツと床に靴音が響く音が聞こえてきた。
 周りに居た者が全て姿勢を正して敬礼のポーズを取っている。
 この船の艦長、シドだとすぐにわかった。
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