第七章


 クレートを迎えにいった後、小型船の後にはボロボロの姿になった海賊船がぴったりとくっついていた。
 襲ってくる様子は見受けられなかったが、その存在は不気味で、マイキーは恐る恐る近づいてクレートを回収した。
 クレートが操縦室に入って来たとき、キャムは走りよって抱きつきたい衝動に駆られたが、それをぐっと堪えて笑顔を見せた。
「お帰りなさい」
 涙ぐんだ声だったが、ずっと泣いてばかりだっただけにぐっと耐えた。
 ジッロとマイキーもクレートの姿を見るなり、体の力が抜けてほっとする。
「心配かけてすまなかった」
「ああ、もう修羅場だったよ。特にキャムが取り乱してさ、クローバーがこうやってぱちーんだもんな」
 ジッロが隠すこともないと正直に伝えた。
 キャムは恥ずかしくなって俯いてしまった。
「だって、あの時、僕のせいでクレートに何かあったらと思ったらいてもたってもいられなくて」
 クレートの顔をまともに見れないでいるキャムに自ら近づいて、クレートはキャムの頭をくしゃっと撫ぜた。
「また辛い思いをさせたみたいだな。大丈夫か」
 キャムの涙腺が緩んで行く。
 しかし体に力を入れて背筋を伸ばした。
「もちろん、大丈夫です」
 ふーっと漏れる息づかいがした笑みがクレートから返ってきた。
「ところで、あの海賊船、一体何してんの?」
 マイキーが聞いた。
「でも、あの海賊さ、つかまってよく処刑されなかったよな」
「それなんだが」
 クレートはスペースウルフ艦隊の中で起こった事を一部始終話した。
 皆は目を丸くしたり、声を上げたりと、スリリングな展開にすっかり息を飲んで聞いていた。
「成る程、それで恩を感じて付き纏ってるってことね。なんと義理堅いやつら。で、どうすんのよ。このまま行く先々についてこられたら、こっちが困るんだけど」
 と、マイキー。
「そうだぜ、仕事にも支障が出てくるぜ。で、いつまでこんな状態が続くんだ?」
 とジッロ。
「私も、ついてくるなと何度も行ったが、行くところもなく、自分達を雇って欲しいといってくるから困ってしまった」
「あの船、相当ボロボロになってますよね。あのままじゃ危ないかもしれません」
「キャム、海賊の心配してる場合かよ。あいつら、キャムのコロニーを襲撃したんだぜ。キャムだって怖い思いしただろう」
「そうですよ、ジッロの言うとおりです。あの海賊が現れなかったら、私だって被害受けることなかったんですから」
 クローバーがプンプンしていた。
「でも、僕、なんだかそんなに憎めません。だって、そのお陰でここに来れたから」
「まあ、結果的にはそうなるよな。でも『お陰』って、そんな感謝することでもないし、なんか複雑な心境」
 マイキーもややこしくなっていた。
「あの、僕思うんですけど、あそこに連れて行けばどうでしょうか。リサイクル資源を運んで欲しいと依頼があったあの男の工場です。あそこなら船も直せそうでしたし、それに僕、もう一度あの男に会いたいんです」
 そのリサイクル資源がムーンダストと呼ばれる麻薬だったと知った今、誰もが難色を示した。
「あの男に会ってどうするつもりだ?」
 クレートが静かに聞いた。
「チッキィのこと伝えなきゃと思って。やっぱりこの鳥笛も返した方がいいかと」
 ポケットからそれを取り出して見せていた。
 クレートのことで取り乱していたとはいえ、落ち着けばやはりチッキィの事を思い出してしまう。
 キャムはキャムなりにどこかで折り合いをつけたかった。
「分かった。そうしよう。マイキーすぐに進路変更だ。場所は一度行ったから分かっているな。ジッロ、もしもに備えて、海賊の行動から目を離すな。それから クローバー、あの海賊について来いと信号を送ってくれ。そしてキャム、レーダーから目を離さず常にこの船の航路の安全を確認してくれ。以上だ」
「ラジャ!」
 一同が元気良く声を合わせていた。
 それぞれの持ち前の場所に着き、クレートの指示通りに動く。
 仲間意識が強まり、また新たにグレードアップしたような新鮮な気持ちになっていた。
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