第七章


「兄貴! なにしんみりとしてんだよ。なんでもう一度戦わないんだよ」
 誰もが振り返った。
 あの海賊のボスが涙を流しながら訴えている。
「えっ、兄貴?」
「どういうことだよ」
 ジッロとマイキーが困惑してる前を海賊のボスは走っていった。
「アマトじゃないか。こんなところで何をしている」
「えっ、二人は兄弟なの?」
 キャムは目の前で向かい合っている人相の悪い顔を持つ、二人の男を唖然としてみていた。
「兄貴がいつまでもウジウジするから、俺は海賊になったんだ。大きな力を手に入れてこの宇宙を牛耳ろうとしてるんだ」
「はい?」
 これはみんながそのとき出た言葉だった。
「おいおい、ちょっと待ってくれよ」
 ジッロが突っ込みたくて仕方がない。
「ということは、この海賊のボスは兄貴に失望して、代わりに自分が力を持ちたいが為に海賊になったという訳なのね」
 マイキーが分かりやすく説明しようとしていた。
「しかしだが、その海賊業も波に乗ってるようではなさそうだが」
 クレートがポロリと苦言する。
「お前、海賊なんかしてるのか」
 久し振りに再会した弟をまじまじとみては、カラクは多少呆れていた。
「いや、それがお恥ずかしいながら、まだ何も海賊らしい活躍はしてなくて」
 そこのところは言い難そうに苦笑いになっていた。
 海賊は活躍するものではないと皆が突っ込みたかったが、間抜けなアマトだけにもう指摘するのも馬鹿らしくなってしまった。
 しかしどこかで何かが繋がって行くこの感覚は、不思議な縁を感じるには充分だった。
 アマトが話に加わってややこしくなり、ここはクレートが簡単にどういう経緯でこうなったかを説明した。
 ここで、キャムのコロニーの話も加わり、全てを話したところで、クローバーが姿を現した。
「ギャー、あの時のアクアロイド!」
 アマトは逆襲されると思って怯えて、部下の後ろに隠れてしまった。
「ちょっと失礼ですね。まるで私が取って食おうとしてるみたいじゃないですか」
 といいつつ、いきなり牙の生えたモンスターの形に変わってアマトを驚かせた。
「おい、クローバーよさないか」
 クレートが牽制して、クローバーはしれっともとの姿に戻って、いつもの無表情さになっていた。
「とにかく、俺たち、なんか、かなり縁があるってことなんだろうな。まさかこんな繋がりになろうとは」
 マイキーが腕を組んで感心していた。
 ジッロも相槌のよう首を振っていた。
 アマトがキャムの前に立っていきなり土下座した。
「あんたのコロニーを破壊して本当にすまなかった。海賊として力を誇示したく自棄になってるときで、慎重に考えずにやってしまったことだった。申し訳ない」
「いえ、その、もう済んだことですし」
 キャムもいきなりのことでどう対処していいのかわからないでいる。
「キャム、お前はほんとにいい子だ。弟をぶってもいいんだぞ。むしろこれはそうするレベルだ」
 そのときアクアロイドがつかつかと歩いてきて、アマトの頭をペチッとたたいた。
 アマトはびっくりして縮み上がった。
「はい、これでおあいこです。あの時私の頭かち割ったから復讐しました」
「ご、ごめんなさい。ほんとに悪ございました」
 ひたすらひれ伏している。
「おい、クローバー、もうそれくらいにしてやれよ。かなり怖がってるぜ」
 さすがのジッロも、笑えないとクローバーの無表情さが不気味に思えた。
「わしの件もそうだが、まさか弟まで世話になっているとは、兄弟で迷惑かけてすまない。そして、クレートわしの弟の命を救ってくれてありがとう」
 カラクの表情が柔らかくなっていた。
 目つきも人を信頼する誠実な輝きを帯びている。
 人相が悪く見えたのは、人を信じてなかったあの目にあったのかもしれない。
 実際、お互いを理解して信頼が芽生えれば、その瞬間からその人の顔を見る目が違って全く別の表情が出てくる。
「実際、真実を知っていたから、見捨てられなかっただけだ。スペースウルフ艦隊の艦長が聞く耳を持っていた事が一番大きかった」 
「あの組織は一体どういう組織なのか知ってるかね。あれだけの権力をもってながら、この宇宙を支配しようという欲もなく、中立の立場にいるのも珍しい。あれだけの力があれば、この宇宙に散らばっている人類の気持ちを一つにしてネオアースに向かっていけそうなものを」
「いや、中に入ってみてわかったが、どこか不安定さを感じた。内部で邪悪なものが力をもてば、そのバランスも崩れていきそうな雰囲気がした。だが、あのシ ド艦長というのはどこかしらカリスマ性があり、人を惹き付ける魅力を持っていたのも事実。そしてその頂点に立って上から覗き込むように全てにおいて冷めて 見ている感じがした。周りはそれに感化されているように思えた」
「あの艦長がわざと中立を保っているということか。しかし、勿体無い力だ」
「あなたもかつてはこの宇宙で力を持とうとした。だが、ネゴット社の裏切りで挫かれた。ネゴット社というのはこの先どうするつもりなのだ」
「ネオアースの飼い犬としてその地位を保つだろうが、今は月から現れたボルト社が勢力を伸ばしに来ている。この二つがいずれ対立するのはそう遠くないだろう」
「ボルト社…… ジュドー・ボルトか」
「えっ、あのジュドーが」
「あのおっさん、そんな立ち位置にいたのか」
 マイキーとジッロが驚く。
 月から仕事でセカンドアースに来ていたのはそういう理由があったのかと一同納得していた。
「だけどさ、ボルト社がネゴット社をつぶしてくれたらいいじゃないか。そしたら今よりは良くなってくれるんじゃないの」
 マイキーは軽々しく言う。
「だが、ボルト社も胡散臭いぞ。誰しも力を持てば自分の権力のことしか考えなくなってしまうもんだ。ボルトもまた力を得るために裏で何をしているか分からないところがある」
「でも、僕たち実際にあって話をしましたが、悪い人には思えませんでした。それに今話題の歌姫アイシャの伯父さんでもあったし、何かと派手な人かもしれません」
「あの歌手は、お飾りにすぎん。宣伝だよ。なぜ急に売れ出したと思う? 裏でボルトが金をつぎ込んでプロモーションをしてるからさ」
「でも、歌はとても上手い人ですよ」
「全てが一致したから、行動が起きてるにすぎない。その真の目的は宇宙の人間の興味を他のところにそらしたいだけさ。アイシャはボルトの戦略の一部さ」
「俺たち、そんな力を持ってるものと知り合えたなら、運が良かったってことじゃないのか。この先何かの役にはたちそうだ」
 マイキーは軽々しく捉えていた。
 キャムはふとアイシャの冷たい微笑を思い出す。
 それが何かの意味を示しているような気になっていた。
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